腎臓教室 Vol.119(2022年1月号)

腎不全の進行と心の変化

長期にわたるコロナ禍の生活の中で、ご高齢の方では身体的・精神的・社会的活動量の低下(フレイル)の傾向がみられました。そもそも慢性腎臓病(CKD)の患者さんは、保存期・透析・移植を含む、どのステージにおいても気分が落ち込む「うつ状態」だけでなく、「うつ病」の罹患も一般の人より高いと報告されています。抑うつや不安などの症状が強いと、治療への意欲や医療者とのコミュニケーション低下を招き、腎機能の低下に影響を及ぼします。

監修:篠田 俊雄 先生
つくば国際大学医療保健学部医療技術学科教授/日本透析医会監事

透析導入における精神症状

 腎臓病では、保存期から腎不全の進行とともに患者さんの精神状態は変化します。特に血液透析導入の前後では患者さんの心の動きは大きく変わることが知られています。それはそれまでの生活スタイルが、治療によって変わることを余儀なくされることが大きな要因でしょう。がんの告知と同様、この病気の治療を受け入れなければという気持ちと現実の治療に直面することで、それに適応するまで心が混乱をきたすということが考えられます。

病態の変化を受容するまでのプロセスの一例

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主な心の変化

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透析導入患者さんの多くで、うつ症状やうつ傾向がみられ、大きく3種類に分類されます。
身体的うつ状態:特に尿毒症や薬の副作用からくる抑うつ状態
反応性うつ状態:透析に慣れた頃起こるうつ状態
内因性うつ状態の初発ないし再発
ただし、透析を受けている患者さんにおけるうつ病は割合としては減少してきています。それは元々器質的に尿毒症性のうつであった人が、透析を受けることによって体調が良くなり、うつの症状が軽くなる人がいるからと考えられています。

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現状の生活や疾患などに対する現実的な不安
将来への漠然とした不安
*不安は睡眠の質に影響を及ぼします。「不眠が3日以上続いたら要注意」という報告もあります。

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なぜ自分が透析を受けなければならないのか!
なぜこんな面倒な治療法を受け入れなければいけないのか!
生活時間を大きく変える透析なんてやっていられない!

透析を許容するまで一定時間が必要

 がんの告知から治療許容までの時間は、およそ2週間と言われています。がんの場合は治療により治癒の希望も持てますが、血液透析の場合は、生涯透析治療を継続しながらの生活を容認できるかという、さらに重い課題もストレスを増強させます。患者さん本人がそのことを理解しておくことに加えて、家族や仕事関係など患者さんの周囲の方々には、患者さんが精神的に透析を受け入れるまでには一定の時間が必要であるという認識をもって接していただくことが重要でしょう。

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心の問題の治療

 患者さんの身体的苦痛ができるだけ緩和されて体調が良くなることが、うつ症状が改善するのにとても効果的であることは意外に知られていません。このため、透析中の一つひとつのケアが丁寧におこなわれることが特に重要です。また、患者さんの心の負担や症状を医療者に話し、よく聞いてもらうことも、うつ症状の改善にとても役立つことを知っておきましょう。医療者側も傾聴と共感が有効であることを認識し、患者さんに接するよう努めているはずです。


心療内科、精神科による心の問題の治療法

 さらに症状が重くなってしまった場合、認知行動療法や運動療法、リラクゼーション技法など、心療内科や精神科ならではの治療法が長期透析患者さんの抑うつ症状を減少させるという報告があります。
 また、向精神薬などを処方されることもありますが、腎臓病ならではの薬のリスクもあるので、主治医や看護師さん、薬剤師さんとよく相談しておきましょう。

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SDMとサイコネフロロジー

 こうした腎臓病とその精神面の症状を研究するのが「サイコネフロロジー」という学問領域で、学会もあり研究が進められています。また今日、患者さんご自身も医療者と共同で透析の導入など重要な治療法の決定に参加するという「SDM (Shared Decision Making)=共同意思決定」が重要視されています。
 ただ、腎不全の患者さんは「そろそろ透析を」と言われてうつ症状や不安障害を呈し、なかなかこの意思決定に参加することが困難になるケースもあります。医療機関によっては、SDMの場に精神科の専門医が参加するところもあるようです。家族を含めて、病気の進行に伴う患者さんの現在の精神状態を把握すること、うつ症状や不安障害が出ることを事前知識として持っていることは、その後の腎臓病治療においても重要なポイントになります。

コラム

そらまめ通信vol.118では、医師から「慢性腎臓病の人はうつになる傾向が高い」と言われて、自分だけではないことがわかり、落ち着きを取り戻した患者さんのエピソードがありました。
こうした心の変化は、患者本人の気づきよりも家族、周囲からの発見のほうが早いことがあります。「以前に比べて…」「ここのところ何となく…」という気づきを見逃さず、早期に主治医に相談し専門的なケアを受けましょう。
それは腎臓病の治療にも役立ちます。

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