腎臓教室 Vol.124(2023年4月号)
腎臓病の重症化予防に役立つ画像診断
私たち病院の画像診断医は毎日20~30人の患者さんの腎臓をCTやMRIで観察していますので、腎臓の大きさや形などをどの科の医師よりもたくさん見ていることになります。したがって、患者さんの自覚症状がない早い段階で腎臓の異常に気が付くことも頻繁にあります。腎臓はそらまめ形をした左右ふたつの臓器で、縦の長さが10cm、横幅6cm程度で中央に血管や尿の出ていく管が入ってくる窪みがあります。血液検査や尿検査で腎機能の異常が見つかった時には、その原因を最初に絞り込む必要があるので、CT検査やMRI検査をおこなうことがあります。
監修:池上 匡先生
神奈川歯科大学 画像診断科 教授
腎臓の大きさと腎疾患
腎不全になると多くの場合は腎臓が小さくなりますが、50歳を超えると腎臓病でない方の腎臓も年齢とともに徐々に小さくなるので、腎臓が小さいかどうかを判断するには患者さんの年齢を考慮する必要があります。逆に、嚢胞腎(水がたまった袋(嚢胞)がたくさんできて腎臓の働きが徐々に低下していく遺伝性の病気)は腎臓が大きくなると腎機能が低下する病気です。嚢胞腎の患者さんの腎機能は腎臓の体積と反比例するので、定期的に腎臓の体積測定をおこなって治療のための薬剤開始のタイミングを決めます。
糖尿病性腎症の場合には、腎臓が小さくないのに機能が低下していることもありますし、悪性腫瘍のリスクが高くなると言われていますので、ときどき全身の画像検査を受けることをお勧めしています。
CT検査
CT検査は、腎臓の大きさの他に嚢胞や結石、腎臓がん、腎動脈の異常、水腎症(尿の流れが滞るために腎臓が腫れてくる病気)なども見つけることができますし、腎臓病で最も重要な合併症である心臓の弁や全身の血管の動脈硬化の進行度合いも評価することができる優れた診断方法です。
長期に透析を受けている患者さんでは、非常に小さくなった腎臓に嚢胞という袋が多数発生してきます。これらの嚢胞はがん化する危険性が高いと言われていますので、定期的な画像診断が必要となります。CT検査は放射線被ばくをともないますので、検査を受けるかどうかは主治医とよく相談して決めてください。
MRI検査
図1(拡散強調像と呼ばれます)では、左の腎臓(図の右側Ⓐ)が右側の腎臓(図の左側Ⓑ)に比べてあきらかに小さくなっています。そして左の腎臓(Ⓐ)は右(Ⓑ)よりも白さが際立つ画像となっていることがわかります。この拡散強調像では異なった病院や、同じ病院であっても撮影する時の条件によって白さが変わる可能性があります。したがって、他の病院で撮った画像と比べたり、同じ病院でも過去の画像と比べたりするためには、特殊な計算をさせた標準化画像(ADCマップと言います)に変換します。
図2は変換後の標準化画像です。このADCマップでは、腎機能が低下するほど黒く表示されるため、この黒さの程度を測定します。図2では右の腎臓(図の左側Ⓒ)の濃度は約2100(マイクロ平方mm/秒という単位)で正常値ですが、左の腎臓(図の右側Ⓓ)の濃度が約1700と低下しています。1800を下回ると腎機能が低下していると評価できます。ADCマップで測定したこれらの値は病院や装置が異なっても、理論上同一の値となるので比較することが可能になります。
このようにMRIは大きさや形の異常の他に腎機能も大まかに評価することができますが、これらの画像の解釈は難しいので経験をつんだ専門医による診断が必要です。
MRIでも腎臓病患者さんが他の病気で造影剤を使った検査をする場合には、GFRが1分あたり30ml以下になると造影剤を使用できるかどうか検査の重要性を考慮しながら慎重に判断します。
コラム
糖尿病や高血圧でクリニックに通っている、あるいは血液透析をしているけど画像診断は受けたことがないという患者さんは少なくありません。
慢性腎臓病の患者さんは定期的な血液検査が必須ですが、さまざまな画像診断検査を組み合わせることで合併症や腎臓の状態を早期に把握できることも知っておきましょう。