腎臓教室 Vol.131(2025年1月号)
透析患者さんのかゆみの現状と対策
監修:高橋 直子 先生
医療法人あかね会 大町土谷クリニック院長
かゆみは多くの透析患者さんに認められ、強いかゆみは睡眠障害やうつ状態を引き起こし、生活の質(QOL)のみならず生命予後も不良にする重大な合併症です。ある国際研究(2015~2018年)によると、わが国の血液透析患者さんの74%にかゆみがあり、38%に中等度以上の強いかゆみが認められていました。かゆみがある患者さんや強いかゆみがある患者さんは徐々に減りつつありますが、最近のかゆみの実態はあきらかではありません。今回、腎臓サポート協会の会員患者さんにも協力をいただき、血液透析患者さんのかゆみの有無や強さ、QOLへの影響などについて調査をおこないました。
かゆみの現状
485名の有効回答が得られ、透析患者ではかゆみが起きやすいことを知っていた患者さんは75.7%(367名)、かゆみを経験している患者さんは77.9%(378名)でした。
かゆみを経験している378名のうち、最近2週間のかゆみにより皮膚への悪影響を感じている患者さんは70.6%に達し、内容別では「皮膚のかさかさ感、ちくちく感などが気になる」39.9%、「皮膚のかき傷が気になる」35.2%と続き、かゆみによるQOLの低下が懸念される結果でした。
かゆみを経験している378名に対して、かゆみの程度を5段階で調査した結果、日中のかゆみは、なし5.3%、軽微17.7%、軽度50.3%、中等度20.9%、激烈5.8%。夜間のかゆみは、なし11.9%、軽微23.0%、軽度44.4%、中等度16.1%、激烈4.5%でした。
日中と夜間では、日中のかゆみに悩まされた患者さん(19.8%)よりも夜間のかゆみに悩まされた患者さん(28.6%)の方が多くなっていました。
かゆみについての相談経験や聞き取り経験の実情
かゆみを経験している378名に対して、かゆみについて誰かに相談した経験や通院している透析施設でかゆみについて聞き取りされた経験を確認したところ、60.6%の患者さんが相談したことがあり、52.9%の患者さんが聞き取りされたことがあると回答しましたがいずれも十分とはいえず、かゆみがある患者さんの約4割はかゆみについての相談や聞き取りの経験がなく、聞き取り経験は相談経験よりも低い結果でした。
相談していない理由は、「相談するほどのかゆみではないから」38.3%が最も多く、次いで「自分でかいたりしてがまんできるから」24.2%、「かゆみはあるものだと思っているから」22.1%と続きました。かゆみに対する自制やあきらめにより相談できない状況が浮かび上がりました。
治療の効果と負担感、満足感、関心度
かゆみの治療状況では、生活環境や生活習慣への配慮を含めた何らかの治療やセルフケアをしている患者さんは55.3%であり、そのうちの87.1%は効果を感じていました。
治療をしていない理由は、「治療するほどのかゆみではないから」49.7%が最も多く、次いで「自分でかいたりしてがまんできるから」23.7%、「透析のかゆみは、治まらないと思っているから」19.5%、「治療できることを知らなかったから」17.2%と続きました。かゆみが自制内であったり、治療法を知らずにあきらめている状況がうかがえました。
治療をしている患者さんの54.1%は治療を負担と感じておらず、50.2%が満足していました。一方で、「負担と感じている」29.2%や「治療に満足していない」16.7%と一定数存在していたことから、外用薬の塗布を負担に感じていたり、より効果的な治療法を求めていたりする可能性が考えられました。また、85.2%の患者さんはかゆみの症状や治療に関心があると回答しており、かゆみの治療に前向きな姿勢でした。
空気が乾燥する冬のかゆみ対策
乾燥肌(皮脂欠乏症)はかゆみの原因として重要です。空気が乾燥する冬は、肌も乾燥してかゆみが強くなりやすいため、日常的にスキンケアをおこなってかゆみの予防や改善に努めましょう。皮膚を清潔に保つことは必要ですが、乾燥肌を防ぐため熱い風呂や長湯は避け、石けんの使用とこすり洗いは控えめにし、入浴後などに保湿剤を塗りましょう。さらに部屋の加湿を心がけ、こたつや電気毛布の使いすぎに注意しましょう。化学繊維や毛織物は皮膚を刺激しやすいので、肌に直接触れるものは木綿や絹が良いでしょう。
コラム
今回の調査(2022年11月下旬~12月)では、依然として多くの透析患者さんがかゆみに悩んでおり、医療従事者には適切な情報やケアの提供が求められていることがわかりました。かゆみのないすこやかな皮膚と心が保てるよう、さらに取り組んでいきたいと思います。