心に残る患者さん ~ドクターズエッセイ~Vol.132(2025年4月号)

ドクターが忘れがたい患者さんについて語るリレーエッセイ。
(先生の肩書は掲載当時のものです)

心に残る患者さん ~ドクターズエッセイ~Vol.132(2025年4月号)

石川 英二 先生 (いしかわ えいじ)

済生会松阪総合病院 
腎臓センター長

恩師の笑顔が教えてくれたこと

 1985年、私が中学3年生の時、国語を担当いただいた副担任の先生は背が低く、猫背で肌の色が妙に土黒かったのが印象的でした。授業は普通に厳しかったですが、親しみのある先生でした。私が高校の入学式で誓いの言葉を読むことになり、中学の校長先生に揮毫をお願いしたところ、その国語の副担任の先生を紹介いただきました。毛筆で達筆に読みやすく書かれた宣誓書を手渡していただいた際、先生から笑顔で「頑張って来いよ」と言われたのが今でも忘れられません。後で知ったことですが、先生は血液透析を受けられていました。当時は自分が将来、腎臓や透析に携わる仕事に就くことなど夢にも思っていませんでしたが、先生は自分にとって「透析患者さん」ではなく、「国語の先生」であり「高校入学を温かく支えてくださった恩師」でした。

 透析は生命維持装置ではなく、社会復帰のための手段であり、透析をしたら何もできなくなるのではなく、これまでやってきたことや、これからやりたいことを続けるための手段だと思っています。幸運にも、私は自分が医者を志す以前の中学生の時に、そのことを実践されていた先生に出会い、教えを受けていたのでした。私は初対面の患者さんを診察する際、なるべくこれまでの職業を伺うようにしています。そこから患者さんの人生をほんの少しですが垣間見ることができます。腎臓の働きが悪化し、腎代替療法を患者さんに説明する際には、残された人生をできる限りこれまでと同じように過ごしていただくにはどんなサポートができるだろうかを考えます。透析になった際は「○○さんは透析患者」ではなく、「透析を受けている○○さん」として、一人ひとりに対応するよう努力しています。皆さんには、病気があることが不幸と考えるのではなく、病気とうまく付き合いながら、いかに人生の目的を達成できるかを考えてほしいです。私たち医療者はそのサポートをするのが役割だと思っています。悩んでいる患者さんを前にすると、今でも中学時代の恩師の先生の笑顔が目に浮かび、私を励ましてくれます。

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