保険制度
透析治療・腎臓移植の費用
日本では1965年ごろ、腎不全に対する治療法として透析治療(血液透析(HD))が始まりました。当初は、保険診療としての適用が認められず、患者さん自身が高額な治療費の負担を強いられるという不幸な時代もありました。しかし、患者さん自身が結束して患者さん会(現在の全国腎臓病協議会)を立ち上げ、透析医をはじめとする関係者の協力も得て行政へ働きかけた結果、さまざまな福祉制度が実現していきました。その結果、血液透析(HD)・腹膜透析(PD)・腎臓移植ともに、医療保険ならびに公費負担医療制度により医療費が援助されるので、経済的には大きな心配もなく安心して透析治療を受けることができます。
医療保険制度のしくみ
あなたは今、どの医療保険に加入していますか?医療保険には、健康保険と国民健康保険があり、健康保険には協会けんぽ(旧政府管掌健康保険)・健康保険組合や各種共済組合(公務員、私立学校教職員など)による保険・船員保険など、さまざまな種類があります。いずれも、保険適用の医療費のうち3割が自己負担・残りの7割が保険から給付されるしくみになっています。
また、75歳以上の方は後期高齢者医療制度に加入することになります。後期高齢者医療制度には、65歳以上74歳未満の方で一定程度の障害をお持ちの方も希望により加入することができます。こちらは、保険適用の医療費のうち1割(所得によっては2割)が自己負担・残りの9割(所得によっては8割)が後期高齢者医療制度から給付されるしくみになっています(制度発足時は、将来自己負担を2割ないし3割に引き上げる予定でしたが、2009年4月現在、現行の負担が継続されています)。
生活を支える制度
透析治療を始めた患者さんは、まずそれぞれの医療保険の窓口で「特定疾病療養受療証」の交付手続きをしましょう。これにより、透析治療にかかる医療費は月1万円(健康保険・国民健康保険の方で一定以上の所得のある方は2万円)までの自己負担で納まるようになります。特定疾病療養受療証の適用は「1レセプト(診療報酬明細書)ごと」になるので、同じ月でも入院/外来はそれぞれで、また医療機関ごとに1万円もしくは2万円までの自己負担が生じます。 拡大はこちらあわせて、身体障害者手帳を申請すると、手帳の等級と所得額によっては障害者を対象にした公費負担医療制度の対象になります。こちらは、透析以外の医療費も助成対象となるので、例えば眼科受診される場合、歯科に通院中の場合など医療費負担がずいぶん軽減されることになります。対象・助成内容は都道府県によって異なっていますので、ご注意ください。
また、生活保護受給中の方は、透析導入とともに身体障害者手帳と自立支援医療(じん臓)の申請が必要です。
このほかにも、事情によっては、健康保険の傷病手当金、障害年金など公的年金、雇用保険といった所得保障制度も活用できます。
それと忘れてはいけないのが、腹膜透析(PD)には欠かせない透析液加温器。これは身体障害者手帳をお持ちになると、日常生活用具として手続きにより購入費用が助成されます。購入額の9割が助成されるので、患者さん自身の負担は1割分ですみます(注 市町村によっては所得に応じた負担軽減措置を実施しているところもあります)。ただし、助成限度額が設定されているので、購入費用がこの助成限度額を超えた場合は、「助成限度額の1割+超過分」を負担することになるのでご注意ください。
いずれも上手に活用するためには、手続きの仕方だけでなく申請のタイミングも大切です。透析導入が近づいてきたら、通院先のソーシャルワーカーや医療保険の保険者、行政の窓口を一度お訪ねになって、詳しい情報を聴いておくことをお薦めします。
透析にかかる医療費助成制度の概要は以上ですが、利用できたとしても、長い透析生活、折々に変更の手続きが必要となる場合もあります。その主なものを以下にご紹介しましょう。
引越しされる場合
引越しが決まったら、面倒くさがらずにあらかじめ窓口へ問い合わせ、確認しておくことが大切です。また、大切な郵便物が新しい住所へ届くよう、郵便局へ転送願も提出しておきましょう。かかりつけの透析施設へ、新しい住所と連絡先を知らせることも忘れないでください。
就職・転職・退職の場合
このような場合、新しく社会保険に加入する方は、以前の健康保険から継続して加入できるようくれぐれも留意しましょう。まず、新しい健康保険の加入日を確かめたうえで、それに合わせて以前の健康保険を脱退するようにします。手続きは勤務先が行なってくれるので、あとは新しい保険証が届くのを待ちましょう。
退職される場合は、任意継続の利用、国民健康保険への加入、家族の社会保険に被扶養者として加入、の3とおりの方法があります。保険料・給付内容をよく比較して選ぶことがポイントになります。申請には期日があるので、退職後1週間以内に手続きできるよう、あらかじめ準備しておくことをおすすめします。
また、新しい健康保険証にあわせて特定疾病療養受療証の交付申請も必要です。なお、保険証・医療証が変わった場合には、必ず新しい保険証・医療証を透析施設に提示してください。
後期高齢者医療制度への移行
65歳になった透析患者さん、65~74歳で透析を導入された方で、身体障害者手帳1・3級に該当する方は、75歳までに後期高齢者医療制度へ移行することができます。これは自動的に移行となるのではなく、あくまでご自身のお考えに基づく申請の結果として行なわれるものです。2009年現在、受けられる医療に大きな違いはないので、おもに保険料負担と利用できる医療費助成制度をポイントにお考えになると良いでしょう。保険料負担については、例えば夫婦世帯の場合、夫婦でひとつの保険証だったのが、後期高齢者医療制度に加入すると、後期高齢者医療制度に加入する人と健康保険に加入する人の2つに分かれます。それぞれで保険料負担が発生すると、これまでよりも保険料負担が上がる可能性には注意が必要です。役所の担当窓口で保険料を試算してもらい、よく検討してみてください。後期高齢者医療制度を取りまとめている広域連合のホームページ上でも、保険料試算のページを設けているところがあるので、こちらを利用されてもいいでしょう(ただし、保険料は都道府県ごとに異なるので、お住まいの地域を管轄する広域連合をご利用ください)。
医療費助成制度も健康保険と後期高齢者医療制度とで、利用できる制度に違いがないか役所の担当窓口できちんと確認しておきましょう。
年金受給中の方
障害年金受給中の方では、数年に1回は診断書の提出も必要になります。うっかり忘れていて、月末にあわてて「診断書、今日中に書いてください!」と駆け込んでくる方も少なくありません。期限近くになってあせらないよう、お手元に診断書の用紙が届いたらすぐに透析施設へ提出することを心がけましょう。
さらに詳しいことは、透析施設のソーシャルワーカー、もしくは窓口機関へおたずねになるといいでしょう。
<転居にともなう手続き一覧>
手続き | 対象 | 窓口 | 必要なもの | 備考 |
---|---|---|---|---|
健康保険証の住所変更 | 社会保険をご利用の方 | 勤務先 | 印鑑・健康保険証 | 特定疾病療養受療証も住所変更をしましょう |
国民健康保険への加入 | 以前の住所地で国民健康保険に加入していた方 | 市町村役場 | 印鑑 | 手続きは転入から14日以内 |
後期高齢者医療被保険者証の交付申請 | 以前の住所地で後期高齢者医療被保険者証をご利用の方 | 市町村役場 | 印鑑など | 手続きは転入から14日以内 |
特定疾病療養受療証の交付申請 | 国民健康保険・後期高齢者医療被保険者証をご利用の方 | 町村役場 | 印鑑など | 医療機関の証明が必要なので、まず窓口から申請書を取り寄せ、あらためて申請するのが良いでしょう |
障害者医療証の交付申請 | 2級以上の身体障害者手帳をお持ちの方 | 市町村役所 (福祉事務所) |
印鑑・身体障害者手帳・収入所得の分かるもの | 都道府県によっては、3級以下でも対象となるところがあります |
老人医療一部負担金助成証明書 | 2級以上の身体障害者手帳をお持ちの方 | 市町村役所 (福祉事務所) |
印鑑・身体障害者手帳・後期高齢者医療被保険者証 | 都道府県によっては、3級以下でも対象となるところがあります |
身体障害者手帳の住所変更 | 身体障害者手帳をお持ちの方 | 福祉事務所 | 印鑑・身体障害者手帳 | 自立支援医療をご利用の方は再申請が必要です |
公的年金受給者の住所変更 | 厚生年金受給中の方 | 社会保険事務所 | 印鑑・年金証書 | 手続きは転入から10日以内/厚生年金基金からも年金を受給している場合は、厚生年金基金へも届け出ましょう |
国民年金受給中の方 | 市町村役所 | 印鑑・年金証書 | 手続きは転入から14日以内 | |
医療費公費負担制度の申請 | 小児慢性特定疾患・特定疾患・育成医療をご利用の方 | 保健所 | 窓口に出向きお確かめください | 再申請もしくは住所変更の手続きをします |
駐車禁止除外 指定標章の交付 | 以前の住所でご利用になっていた方 | 警察署 | 印鑑・身体障害者手帳・車庫証明書・運転免許証・自動車車検証・特定疾病療養受療証など、透析患者であることが証明できるもの・以前使用していた駐禁除外標章 | |
介護保険・要介護認定の継続 | すでに要支援・要介護の認定を受けている方 | 市町村役所 | 印鑑・要介護認定結果の証明書 | 証明書は以前の住所地の介護保険の窓口で発行しています |
- ご不明な点や詳細については、窓口機関へおたずねください。
- 最近、福祉事務所や保健所に「福祉係」「保健センター」など、親しみやすい名称の窓口に変更している役所が増えています。
電話帳や行政広報で探すと、とまどう場合もあるかと思いますので、「身体障害者手帳の申請はどこ?」「健康保険の窓口は?」と直接役所の総合案内で確かめるとよいでしょう。
また、問い合わせのための電話番号も、係ごとに直通番号を使用している市町村があるので、引っ越したときには、お使いになっている制度の担当窓口の電話番号も、確かめておくと便利です。