腎臓教室 Vol.64(2012年8月号)
糖尿病性腎症 ~進行を抑えるために~
血糖コントロール+腎臓をいたわる
糖尿病の合併症として腎症を発症する方が増えています。これは長期的に高血糖が続くことで血管が傷めつけられ、腎臓が傷むことで起こります。そのため、腎症が現れてからも「血糖管理」は最重要ですが、それに「腎臓をいたわる」治療が加わります。
日本大学医学部 腎臓高血圧内分泌内科 助教 阿部 雅紀 先生
【ヒント】食事療法が変わります ~腎臓に優しく~
糖尿病も糖尿病性腎症も、治療の基本は食事療法です。しかしそれぞれの食事療法は互いに矛盾する内容が多く、混乱する方もいらっしゃいます。どこが違うのかを理解しておきましょう。【1】なぜタンパク質を減らすのでしょう?
タンパク質が消化されるときに多くの老廃物がでて、腎臓でろ過され、尿のなかに排泄されます。これは腎機能が低下しているときには腎臓に大きな負担をかけ、尿毒症症状の出現や腎症の進行を早めてしまいます。そのためタンパク質の摂取を制限することが大切になります。【2】なぜ炭水化物を増やすのでしょう?
タンパク質を減らすと、身体に必要なエネルギーが不足し、体内のタンパク質が分解されエネルギーとして使われます。これでは、せっかくタンパク質を制限したのに、老廃物が増加してしまいます。そこで、足りないエネルギーは炭水化物や脂質で補う必要があります。【3】塩分の制限
食塩の主な成分であるナトリウムは、主に腎臓から排泄されます。腎機能が低下していると、体内に塩分が溜まり、高血圧や動脈硬化が進み、さらに腎機能が低下してしまうという悪循環が生じます。それをふせぐために、塩分の制限をおこないます。【4】脂質
エネルギー確保のために、今まで控えていた脂質も、適量であれば摂っても良くなります。糖尿病の食事療法を守ってきた方には戸惑うところですが、食事療法の変化により血糖コントロールが難しくなる場合は、薬物療法で血糖管理をおこないます。【5】カリウム、リンの制限
腎症が進むと、カリウムが排泄されにくくなり、心臓病のリスクが高まるので、カリウムが含まれる食品を控えることが必要になります。さらに腎不全期になるとリンの排泄が減り重篤な合併症を起こしやすくなりますから、リンを含むタンパク質の制限がより大切になってきます。【ヒント】薬が変わります ~血糖・血圧のコントロールが中心~
血糖をコントロールする薬のなかでも、腎臓に負担がかかる薬は、腎臓に優しい薬に変更されます。またタンパク尿がでるようになると、高血圧の傾向になるので、血圧をコントロールする薬が増えます。ほかにも、血液をサラサラにする薬、血中のコレステロールを下げる薬、貧血を改善する注射薬、酸性になった身体をアルカリ性に戻す薬など、症状にあわせて複数の薬が使われます。どんな薬を飲んでいるのかわからないときは、薬剤師に相談し、飲み忘れがないよう気をつけてください。【ヒント】生活のなかで注意することが変わります ~過労には注意~
血糖管理や肥満解消のために運動療法は推奨されますが、心臓病や視力障害、神経障害がある場合は少し控え、腎臓に負担をかけないために、無理な運動は避けてください。規則正しい生活をおくり、疲労を残さないよう、特に食後の安静を心がけ、腎症が進むのを防ぐことが大切です。
食事療法、薬物療法、運動(安静)の基準は、腎症の進行程度や、年齢や合併症などを考慮して決められます。わからないことがあれば、医師や栄養士、薬剤師にたずね、正しい治療を心がけ、腎症の進行を防ぎましょう。