腎臓教室 Vol.85(2016年2月号)
~腎機能の指標:きちんと理解しておきたい~
クレアチニンってなに?
腎臓が悪いことがわかってから何かと耳にするクレアチニン。腎臓の機能がどの程度なのかを表す血液検査のひとつなのは知っているけど、実際にはよく分からないという方も多いのではないでしょうか。今回はこのクレアチニンについて筑波大学の山縣邦弘先生に解説していただきました。
筑波大学医学医療系臨床医学域腎臓内科学 教授 山縣 邦弘 先生
腎臓の構造・機能と検査の意味
腎臓は沈黙の臓器といわれるように、腎臓の機能が相当落ちてこないと自覚症状はあらわれません。そこで早期に腎臓の状態を知る重要な判断材料となるのが、尿や血液の検査です。ひとつの腎臓には約100万の糸球体があるといわれていますが、糸球体は毛細血管が繭状に固まったもので、この糸球体の毛細血管壁が腎臓の基本的な働きである濾過膜の役割を担っています。尿検査、特にタンパク尿検査は、濾過膜の異常により、尿中にタンパクが漏れているかどうかを調べる検査です。また血液検査では、腎臓から尿中へ体内の老廃物(食事等から摂取したものを分解して生じたあとの不要となった物質)の排泄が正常におこなわれているか、ちゃんと血液が糸球体で濾過されているかを調べます。具体的には糸球体濾過量といって、腎臓全体で1分あたりに濾過できている血液量をみています。この濾過量を反映する検査が腎機能の検査になります。腎機能をみる血液検査:血清クレアチニン
腎臓の働きが落ちると、尿から排泄される様々な物質が体内にたまって血液中の濃度が上昇してきます。このような上昇する物質として一般的な血液検査で測定可能なものにはクレアチニン、尿素窒素、シスタチンC、尿酸、β2マイクログロブリンなどがあげられます。これらの中でも血清クレアチニン値は、糸球体濾過量をよく反映する一般検査として広く利用されています。血清クレアチニンの正常値は男性0.6~1.1mg/dl、女性0.4~0.8mg/dl程度といわれています。腎機能の低下とともに血清クレアチニンが上昇しますが、腎臓病の将来を占うためには、1回の検査ではだめで数週から数ヶ月間隔で繰り返し測定して、その変化(変化スピード)を確認します。
最近では、血清クレアチニンをもとに糸球体濾過量を推算するeGFRで個々の患者さんの腎機能を評価することが多くなってきました。ここでは具体的な計算式は示しませんが血清クレアチニンと年齢、性別を入力すると計算することができます。最近では医療機関で血清クレアチニン検査を実施すると自動的にeGFRを計算して表示してくれるところが増えてきましたので、一度ご自身のeGFR値も確認しておいてください。
*クレアチニン(Cre)とは
筋肉で作られる老廃物のひとつで、そのほとんどが腎臓の糸球体から排泄されます。そのため、血液中のクレアチニンの増加は、糸球体の濾過機能が低下していることを意味します。ただし、筋肉が多い人は高めに、筋肉が少ない人は低めになるために、これだけでは正確性に乏しいため、最近では血清クレアチニンと年齢・性別から計算するeGFR値で腎機能を評価するようになりました。血清クレアチニンが腎機能の指標として当てにならない場合とは?
一般にクレアチニンが腎機能の指標として当てにならないのは極端な肥満ややせ、高蛋白食、運動などによる筋肉量過多などが認められる場合です。特に腎機能が高度に低下した場合には、血清クレアチニン値は腎機能そのものよりも栄養状態や筋肉量の影響を受けやすく、腎機能の評価は血清クレアチニン値や血清クレアチニン値をもとに計算するeGFR値のみに頼るのでなく、蓄尿によるクレアチニンクリアランスなど、他の方法での腎機能の評価をあわせておこなう必要があります。またこの時期は検査データに頼り過ぎず、自覚症状や他覚症状などで総合的に腎機能の変化を判断します。血清クレアチニン検査の結果をどう見るのでしょうか
慢性腎臓病(保存期)の患者さんの診療では、糸球体濾過量が15~30(ステージG4)に至った時点で、将来の腎代替療法(透析や移植)についての説明をおこなうべきとされています。またステージG5(糸球体濾過量15未満)以降は、自覚症状の変化、栄養状態等を総合的に判断して、透析療法以外に症状の改善がはかれないと診断した場合には透析療法の開始を判断します。
何より大切なのは自覚症状の出ないよう、体調管理につとめることで、クレアチニン8mg/dl以上(eGFR6ml/min/1.73m2未満)のなるべく高値まで透析療法の開始を遅らせられると生命予後の点で最も良好であることもわかっています。
前述しましたが現在の血清クレアチニン値ばかりに気を取られるのでなく、その変化が重要です。実際に血清クレアチニン値6mg/dl以上で長期間安定して、透析療法を受けずにいる患者さんもいます。一方1年間で血清クレアチニン値が1.5mg/dlから8mg/dl以上に上昇してくる方もいます。血清クレアチニン値は血液中の濃度を見ていますので、数値が安定していても浮腫がひどくなって血液が希釈されてくると、腎臓の働きが悪くなっているにもかかわらず、血清クレアチニン値は上昇してこない(ときに低下する)場合もあります。血清クレアチニン値は腎機能を見る重要な指標ですが、その数値ばかりにとらわれすぎないことも大切です。
また現在透析をおこなっている患者さんにとっては、透析前のクレチニンと透析後のクレアチニンの変化で順調に透析がおこなわれているかどうかがわかります。透析患者さんは経年的に透析前の血清クレアチニン値は低下していくことが多いのですが、これは加齢、透析継続に伴う筋肉量の低下のためといわれています。そこで、なるべく透析前のクレアチニン値は高値が維持できるように、筋トレなどの運動に励み、透析後のクレアチニンがしっかり下がるように充分な透析を受けるといいともいわれています。