腎臓教室 Vol.101(2018年10月号)

腎臓病療養指導士・誕生!
~CKD の療養を多職種連携でサポート~

今年4月、新たな医療資格である腎臓病療養指導士が誕生しました。また7月にはNPO法人日本腎臓病協会が設立され、CKDの治療体制が着々と整ってきています。新しい資格と新しい協会、腎臓サポート協会も全面的に協力していますので、どんな仕事をしてくれるのか、理事に就任なさった内田明子先生が執筆くださいました。

NPO 法人日本腎臓病協会理事・聖隷横浜病院 総看護部長 内田 明子 先生

1.腎臓病療養指導士が誕生しました

 慢性腎臓病(CKD)の治療は、医療チームでおこなう療養指導が効果的だといわれます。それは無症状であっても通院を継続しなければならないことや、生活習慣の改善、特に人生の楽しみのひ とつでもある食生活が制限されるという、人にとってはなかなか困難な課題に取り組むこととなるためで、医師の診療だけでなく、看護師や栄養士、薬剤師等がそれぞれの専門を活かしながら療養をサポートしていくことがより効果的であると考えられるからです。このようなことから、昨年より、腎臓病の基本的知識をもって生活・栄養・服薬指導などの療養指導に精通した医療職(看護職、管理栄養士、薬剤師)の養成がすすめられており、2017年度は全国で新たに734名の腎臓病療養指導士が誕生しました。うち看護師が59%の433名、管理栄養士が21%、薬剤師が20%でした。

2.腎臓病療養指導士のしごと

 腎臓病療養指導士は専門医やかかりつけ医と協力し、パートナーとして患者さんをサポートしていきます。共通目的はCKD の進行予防ですが、特に、患者さんが受診を続け療養を継続できるよう、そして患者さん自身が主体となって治療するというセルフマネジメント能力を高めるために、それぞれの職種(管理 栄養士、薬剤師、看護師)の得意分野を生かしてサポートしていきます。

受診・療養の「継続」

長年にわたって医師や研究者が研究し構築してきた素晴らしい治療方法や研究成果を患者さんが受けられる環境を整え、治療の成果を出すためには、受診の「継続」と、生活習慣病を改善するための療養の「継続」が重要で、この「継続」をサポートします。

セルフマネジメント能力を高める

患者さん自身が、療養生活の主体は自分であるという意識をもつことも大切です。自分で病気の知識や技術をもつことで、これまでの自分の生活と折り合いをつけながら自分自身で治療を継続していくことが可能になるようフォローします。

3.慢性腎臓病(CKD)と看護

 私が所属する聖隷横浜病院での看護師としての取り組みについて紹介させていただきます。当院では2017 年7 月より腎臓病療養指導士によるCKD 看護外来をスタートし、1 ヶ月で50 件以上の患者さんに対応しました。CKD の治療は人間にとっては困難な課題であるということを大前提に、患者さんの話をよく聞き、その人の価値観や人生観、将来の希望などを理解したうえで、患者さんが主体的に治療を継続できるという気持ちを高めていただけるような対応を心がけました。
 将来の展望としては、すでに全国で活躍している慢性腎臓病療養指導看護師(日本腎不全看護学会認定)と連携し、CKD の良質で適切な医療を効果的に全国で展開することで、CKD の普及・啓発をはかっていきたいと考えています。

4.日本腎臓病協会の役割と仕事

日本腎臓病協会は、本年7月腎臓病に関する啓発、良質な腎臓病医療の普及、疾患克服、社会貢献を目的として設立されました。腎臓病療養指導士の養成と認可も日本腎臓病協会で実施することとなりますが、そのほかにも多岐にわたる業務を遂行しています。どんなものがあるのか、簡単に紹介しましょう。

1.普及啓発・診療連携

腎臓は「沈黙の臓器」といわれ、腎臓病にかかっていても自覚症状がほとんどなく、症状を自覚したときはすでに進行していることが少なくありません。しかし、早期から専門医とかかりつけ医との診療連携による適切な治療と生活習慣の改善によって、重症化を予防することが可能です。国民に広く腎臓病を知ってもらうための普及啓発・診療連携が重要です。

2.腎臓病療養指導士制度の運用と育成

前述したように、腎臓病療養指導士の養成と認定を担当し、専門医・かかりつけ医と腎臓病療養指導士たちが、腎臓病の良質で適切な治療が継続できる体制を、全国各地でつくることが目標です。

3.Kidney Research Initiative-Japan(KRI-J)体制(日本における腎臓病研究を主導)

腎臓病対策の立案、研究、医薬品・医療機器・診断薬開発、政策立案に関わる方々が一同に会するプラットフォームとしてKRI-J を構築しました。日本における腎臓学・腎臓病学の研究普及や成果の社会還元を通じて腎臓病の克服をめざし、国民の健康福祉への貢献のため総力を結集します。

4.患者会・関連団体との連携

腎臓サポート協会、日本腎臓財団、腎臓病SDM 推進協会、全国腎臓病協議会、多発性嚢胞腎財団日本支部、全国ファブリー病患者と家族の会など腎臓病関連団体や患者会の皆様との交流や意見交換によって連携を強化します。

おわりに

腎臓病対策は国民の健康的で幸福な生活のため克服すべき重要な課題です。かけがえのない日々を大切に生きていただくために、共通の目的にむかって多職種連携を軸に、前進していきたいと思います。

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