患者さんのためのコミュニケーション講座
【第6回】(最終回)「納得できないことは何度でも質問を」「医療にも不確実なことや限界がある」「治療方法を決めるのはあなたです」
「何度も同じことは聞きにくい。でも何だかモヤモヤ…」—-こんな悩み相談をよく受けます。納得がいかないことは、納得のいくまで聞かないと、あとで医療者も患者さんも困ってしまいます。「世の中に起きている問題の多くはコミュニケーションの問題」ともいわれます。少しの行き違いから溝が深まってしまったり、逆にうまくコミュニケーションがとれたことで思わぬ好結果をもたらすことも…。それほど、コミュニケーションは大事なのです。
「納得できないことは何度でも質問を」—わからないことをそのままにしない
医療者から受けた説明がよくわからなかったら、必ずわかるまで聞きましょう。「先程説明していただいたのですが、先生のお話をまだ十分咀嚼できていないように思います。しっかり理解したいので、もう一度お話していただけますか?」というように。
ここでは、「聞いていた」という態度を表明するのがポイントです。「聞いていたけれど、○○の理由でもう一度うかがいたい」と、きちんと理由まで伝えます。単に「よくわからなかった」では、「時間を使って話したのに、聞いてくれていなかった」とがっかりされても仕方ありません。でも、理由を言って再度の説明をお願いすれば、もっと念入りに説明してくれるはずです。
何度も申し上げますけれども、十分わかっていないのに「わかりました」はやめましょう。…こんな話がありました。「脳外科で簡単な手術」との説明を受け、「わかりました」と手術を受けてみたら開頭手術。「開頭とは思いませんでした」と患者さん。簡単、という言葉に認識のずれがあったわけです。わかったふりで、あとで困るのは双方です。「こういうことかな」と思ったら、「私はこのように理解しましたが、それでよろしいですか?」と自分の言葉でまとめ、確認しましょう。
ただし、実際に聞くのはご本人であるあなたです。看護師さんに同席していただくのはよいと思いますが、代わって聞いてもらうことは避けましょう。人が変わると言葉が変わり、真意が伝わらないことがあるからです。
「医療にも不確実なことや限界がある」—医療に100%はない
医療相談で患者さんとたくさんお話ししてきた中で、たくさんの不確実性を見てきました。まず、医療も人間がすることで100%完璧なことは求められません。現代の医療ですべての病気を治せるわけではありませんし、同じ治療を受けても、最善を尽くしていただいても、患者さんによって治療効果に大きな違いがある場合もあります。過度に期待すべきものではないと思うし、もちろん、だからと言ってあきらめているわけでも決してありません。
「冷静に医療を受けていきましょう」というのが私の思いですね。患者さんの中には、病院に行けばすべて解決してくれると、過度に期待する向きもあります。でも、医療者だって患者と同じ人間。“万能人”ではありません。
でも最近は、「ちゃんと医療を理解しよう」としている人が増えているのも事実です。日々の活動の中で手応えを感じています。医療者と患者の関係性において、未来は明るいと信じます。
「治療方法を決めるのはあなたです」—でも、一人で悩まない
「治療方法を決めるのはあなたです」—-、そう言われると突き放された感じがするかもしれません。私たちは一生懸命情報を得ようとしていますが、得た情報をどうすればよいのでしょう。選択肢が示されたら、選ばなくてはなりませんね。甲乙つけ難い選択のときもあるでしょう。医療者、本、インターネット、テレビ、新聞…さまざまなところから学び、医療者には治療の効果や危険性もよく相談した上で、自己決定していかなければなりません。そんなとき、患者さんのお話を傾聴し、相談に乗る私たちのような活動が役立つのではないかと思っています。想いを吐き出していただくことで気持ちの整理ができ、おのずと答えが見つかる場合も多いのです。
繰り返しになりますが、「一人で悩まないでください」と、患者さんには申し上げたいです。周囲にサポートしてくれる人、話せる人を、ぜひ見つけてください。
今回が最終回です。いろいろなお話をしてきましたが重要なことは『コミュニケーションは双方向性。あなたの「わかり合いたい!」という気持ちが、お互いの関係をよくしていきます。それによってよりよい医療を受けていきましょう』。
患者も医療者も、同じ人間同士です。よりよい方向に変えていくのは、お互いの前向きな心だと考えています。
半年間、ありがとうございました!