心に残る患者さん ~ドクターズエッセイ~Vol.131(2025年1月号)
(先生の肩書は掲載当時のものです)
土谷 健 先生 (つちや けん)
東京女子医科大学
血液浄化療法科 特任教授
ある日の診察室、突然に
日本の腎疾患(現在は、慢性腎臓病:Chronic Kidney Disease:CKD)患者さんは1,500万人以上、国民8人に1人以上の罹患が推定され、高齢化が進む中、国民病として位置付けられています。それでは、慢性腎臓病とはなんでしょうか?腎臓の病気の名前?悪くなる原因?慢性腎臓病はどんな原因であれ、腎臓に障害が生じ、機能がだんだん低下していく状態を示しています。以前は腎臓が悪くなる原因、その治療を一生懸命考えていたのですが、実はどんな原因であれ、腎臓が悪くなることで、さまざまな悪影響を体に及ぼすことがわかってきました。悪くなる経過で、心筋梗塞や脳梗塞など心循環系の疾患や貧血、高血圧など高率に合併することがわかり、循環器や脳神経の先生方など広い領域にまたがる病態として、2000年頃より注目されるようになりました。CKDは、進行し重症化する患者さんがいて、ある時点では何らかの腎機能の代替をなす療法が生命維持に不可欠となります。この腎機能を代替する療法には、血液透析、腹膜透析、腎移植が含まれますが、最終的に末期腎不全に至るとこの腎代替療法を選択することになります。
今、思い出に残る患者さん(というよりはなお進行形)は、このCKDから血液透析、腎移植を経て、外来に通う患者さんです。27歳の時にたんぱく尿があり、腎生検にてIgA腎症の診断。当時は扁桃摘出+ステロイドパルス療法も広まっておらず進行性。不安感、うつ傾向から不安神経症となり、心療内科を併診するようになりました。今後の腎機能、挙児のことなど、外来毎に相談をしながら経過していましたが、35歳の時に血液透析導入となりました。パニック障害もあり、通院がしばしば困難でしたが、以後なんとかかんとか約10年透析を継続しました。
透析の経過をお話にくる私の外来日、ちょうど席を立ったところで患者さんの携帯が鳴りました。
私:「何?」
患者さん:「腎臓が当たりましたって」
私:「抽選?」
患者さん:「腎臓の提供があるからすぐ来てくれって」
私:「え~っ!どこ?」
患者さん:「女子医大だって」
私:「え~、となりの通路だよ、すぐ行け~」
外科の先生:「やたら早いな」「検査して、すぐ透析、そのあと手術だよ」
患者さん:「やだ~怖い」
私:「うるさい、つべこべ言わない」
移植術後1日で自尿あり、
私:「どう?」
患者さん:「おしっこが近くて1時間おき、寝られない」
私:「寝なくていいよ」
患者さん:「薄情もの!」。
あれから約15年、お互いに60歳も超えて、腎臓も機能中。
内科医として、外来をすることは大事かな。外科の先生のようにすぐに結論が出せないから、長く患者さんを診ることで、その時に最善の治療ができていたのか、患者さんの葛藤を和らげることができたか、CKDという慢性の病気を患者さんと共有することで、勉強し、反省し、喜ぶことができた気がします。医者も患者さんによって育てられたかな。読んでくださっている皆様も、実は大きな影響を医療者に与えています。医療者の育成にご協力を。CKDの患者さんの診療歴42年になります。