体験談 / 一病息災 Vol.104(2019年4月号)
腎臓病と共にイキイキと暮らす方々に、腎臓サポート協会理事長 松村満美子がインタビュー
(職業や治療法は、取材当時のものです)
(職業や治療法は、取材当時のものです)
- 保存期
金子 房 さん(かねこ ふさ:1939年生まれ)
厳しい自己管理はしていませんが、主治医、家庭医、家族のおかげで、保存期を保っています。
1939年8月生まれ。79才。1963年に腎臓が悪いのが分かり降圧治療を始める。2003年腎臓専門医を受診し保存期の治療を開始。2015年「そろそろ透析」といわれてから3年保存期を保ち、2018年、夫の申し出で生体腎移植を検討するが高齢のため実現せず。専門医・家庭医の病診連携と家族の協力があり、保存期を継続中。
85才の主人が腎臓をくれるといって、多くの方が相談に乗ってくれました。
子育て、両親の介護と、忙しい日々を送ってきた金子房さん。腎臓が悪いのは分かっていましたが、積極的な治療をする余裕はありませんでした。自分の時間が持てるようになりやっと腎臓専門医を訪れたときは既に保存期に。主治医も感心する自己管理、食事療法や生体腎移植にまつわる微笑ましいエピソードまで、自作のハワイアンキルトを持参してくださり、いろいろ話してくださいました。
家族も協力して 毎年透析導入を延期
松村 | 当協会理事の篠田俊雄先生から、自己管理ができている患者さんがいると伺いました。ずいぶん長く保存期を保っているそうですね。 |
金子 | 保存期16年です。透析の準備を始めるよういわれたのは3年前で、夏に「今年いっぱい頑張りましょう」といわれ、暮れになると「今年は大丈夫でしたね」とその繰り返しで、ステージ5の入り口にとどまっています。 |
松村 | 今のクレアチニンは? |
金子 | それが1月の検診で初めて4を超えてしまって… |
松村 | それは心配ですね。風邪とか、なにか思い当たることは? |
金子 | お正月のお料理って、卵や芋も豆もあるし、控えているつもりでも、毎年、この時期はちょっと悪くなるんです。 |
松村 | 食事療法をしっかりやれば、戻るかもしれませんね。 |
金子 | 4.57なんて、こんな大きく動いたのは初めてで、戻らないといよいよ透析かと、今、頑張っているところです。 |
松村 | どのように?計ってるの? |
金子 | 計ってはいません。おかずを減らして主人の1/3くらいに、体重が減ってカロリーを増やすよういわれているので、ご飯は頑張って1膳半くらい食べるようにしています。 |
松村 | 家族と同じ食事なのですか? |
金子 | 主人と息子がいますが、献立は変えていません。 |
松村 | 薄味で何もおっしゃらない? |
金子 | 長年気にしているので私以上に薄味で、少し味が濃いものをだすと、「これ、ダメなんじゃない」といわれます。 |
松村 | ご主人が? |
金子 | 主人と息子もです。 |
松村 | ご家族が協力的なのは素敵ですね。 |
ハワイアンキルトの作品の数々。ひとつ作る
のに体中が凝って整骨院に通う日々とか
主治医のきめ細かい指導で保存期17年目に
松村 | 腎臓が悪いのが分かったのはいつですか? |
金子 | 1963年、結婚してすぐに主人の家庭医に連れていかれ検査をしたところ、高血圧と尿タンパク・血尿があり大きな病院で診てもらいました。 |
松村 | 治療を始めたんですか? |
金子 | いえ、腎臓が悪いのは体質で機能的に問題ないので、血圧の管理だけしましょうと。 |
松村 | ご家族でどなたか悪い方がいらっしゃったのですか? |
金子 | 現在、兄は透析10年目、姉は透析5年目に心臓発作で亡くなりました。妹も腎臓専門医にかかっており、母も高血圧でした。 |
松村 | 腎臓病の家系ですかね。それでどう対処していたのですか? |
金子 | 降圧剤はずっと飲んでいました。1980年ごろに尿検査をしたら腎臓が60%しか働いていないので定期的な受診を勧められましたが、子供が3人、主人の両親も同居し、子育てと介護で自分の身体のことを考える余裕はありませんでした。 |
松村 | 大変でしたね。それでいつ治療を始めたのですか? |
金子 | 介護が終わると、子供たちも大きくなり、主人もリタイア、やっと自分の時間が持てるようになりました。合唱やウクレレを始めたり、ハワイアンキルトの先生に出会い、作品作りに没頭しておりました。ある日、腎臓が悪いことを思い出して、友人の医師の紹介で社会保険中央総合病院(現、JCHO東京山手メディカルセンター)の篠田先生に診ていただくようになりました。 |
松村 | それはいつのことですか? |
金子 | 2003年で、既に保存期で減塩とタンパク質40gの食事療法を始めました。 |
松村 | その頃は計ってたんですか? |
金子 | いえ、管理栄養士さんの説明を聞き、篠田先生のお書きになったご本を参考に、一通り頭に入ったので、このくらいという感覚でやってきました。 |
松村 | それだけで? |
金子 | あと宅配の腎臓病食をとってみました。良くないと思っていた豆も芋もキノコも使っていてびっくりしましたが、それぞれちょっとで、「少しずつなら大丈夫なんだ」と知りました。味付けも結構しっかりついているので驚きました。 |
松村 | 宅配は続けたのですか? |
金子 | 冷凍のせいか1ヶ月くらいで飽きてしまって、食事が楽しみでなくなったので止めました。篠田先生も「僕の本に載っているレシピを利用してみたら」とおっしゃるので、それからは自分で作っていますが、なんでも少しずつです。 |
松村 | よくオーバーしませんね。 |
金子 | 早い時期からクレメジンを飲んでいたおかげか、進行がゆっくりだったみたいです。 |
松村 | 腎臓が除去できなくなった毒素を吸着してくれるお薬ですね。効きましたか? |
金子 | はい、でもだんだん悪くなって、今は尿酸や尿素窒素、クレアチニンやヘモグロビンも気にしてますし、造血ホルモンの注射もしています。 |
松村 | 検査値もちゃんとチェックしているのですね。 |
金子 | 先生が指摘してくださるので。カリウム制限が始まったときなどは、先生が「どうしたんでしょうね?」とおっしゃるから、「毎朝作っている野菜スープかしら」というと、「具はなんですか」とお尋ねになるから、「カボチャにタマネギにキャベツにニンジンにトマト」と答えると、「みんなカリウムが高いですよ」といわれて、「じゃ、スープは飲まないで、出がらしの野菜だけ食べるようにします」と、毎回、そんな感じで指導していただいています。 |
松村 | 先生とのコミュニケーションがとても良いのですね。 |
夫からの腎移植は年齢的に無理
松村 | 腎代替療法の説明は受けましたか? |
金子 | はい。まず移植は考えませんでした。人様の身体に傷をつけるなんて考えられなくて。腹膜透析は家でできるのでいいなと思いましたが、実は私は本態性振戦といって手が震える体質なので、手技ができないだろうといわれました。 |
松村 | では、血液透析ですか? |
金子 | それしかないと思って、近所の病院を決めたりしていたところ、昨年、主人が「生体腎移植を考えては」といいだして。 |
松村 | ご主人が腎臓をくださるって? |
金子 | そうなんです。友達に、若いころ移植して元気な人がいて、話を聞いてきたんです。 |
松村 | ご主人はおいくつですか? |
金子 | そのとき85才で、悪いところがないのが自慢なんです。 |
松村 | 80代で提供っていうのはないですね。70代の元気な方からというのは聞いたことありますけどね。 |
金子 | 家庭医も「元気でも加齢のため腎臓の働きは50%くらいになっているので、リスクが大きい」というのですが、いい出したら聞かない人で。 |
松村 | それで、どうしたんですか? |
金子 | 外来に一緒に行って、篠田先生に相談したんです。 |
松村 | 先生はなんと? |
金子 | 「85才というのは聞いたこともないし、リスクを考えてもお勧めはできません」と。それでも主人は頑固で、移植専門医を紹介していただくことになりました。 |
松村 | ご自分はどう思いました? |
金子 | いくら元気でも主人は高齢ですから、何年か先には人の世話にならなければなりませんでしょ。そのとき私が透析をしていたら十分なことができないのではと心配で、移植すれば、介護もできるかもしれないと思いました。 |
松村 | それで移植専門医は? |
金子 | 紹介状があったので話は聞いてくださいましたが、最後に「ご主人も高齢すぎますが、それ以前に患者さん自身の年が問題です」といわれて… |
松村 | おいくつだったんですか? |
金子 | 78才です。それまで主人の年齢ばかり気にしていたのですが、自分も高齢とは… |
松村 | 生体腎移植は70才まで、献腎移植では65才までといわれていますからね。それで、今はどんなふうに? |
金子 | 昨年、篠田先生が定年になられ、一ヶ月に1度しか診察していただけないので、緊急の場合は家庭医に診てもらっています。 |
松村 | 問題はないですか? |
金子 | 前に皮膚科で処方された薬が腎臓に悪く症状が進行してしまったことがあったので、今では心配な薬は家庭医から篠田先生の指示を仰いでいただいています。 |
松村 | 具体的には? |
金子 | 3回ほど高熱を出したことがありますが、そのたびに篠田先生に電話してもらい、使う薬の指導をしていただきました。 |
松村 | 家庭医を持っているのが強いですね。病診連携がうまくいって、しかもご家族の協力も得られて、保存期を保っていられるのですね。 |