体験談 / 一病息災 Vol.65(2012年10月号)
腎臓病と共にイキイキと暮らす方々に、腎臓サポート協会理事長 松村満美子がインタビュー
(職業や治療法は、取材当時のものです)
(職業や治療法は、取材当時のものです)
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松井 重則 さん(まつい しげのり:1963年生まれ)
透析とゴルフの両立から、妻の愛のプレゼントで夫婦間移植に成功。増々意欲的に!
1963年生まれ。プロゴルファーのキャディを経てプロゴルファーに。単身米国に渡りゴルフ修行を積み、帰国。2002年11月、糸球体腎炎が悪化し透析導入。2006年、妻より腎臓を提供され移植。ゴルフレッスンのインストラクターをしながらシニア・ツアー参戦を目指す。
お世話になった方々に、グリーンで活躍する姿をみて欲しい!
腎臓が悪いことに気がつかずに突然の透析導入になったプロゴルファーの松井重則さん。サポートしたいと結婚してくれた奥様が、2年後には腎臓を提供され移植しました。世田谷の練習場をおたずねし、練習の合間にこれまでのお話を伺いました。
「もう一度ゴルフを」妻の思いで移植を決意
2006年に奥様から提供をうけて腎移植なさったそうですが、奥様からいい出されたんですか? | この笑顔にファンが集まる |
感謝と後悔のなか相性ぴったりの妻の腎臓
松村 | 奥様との適合(マッチ)はどうだったんですか? | |
松井 | まったく問題なく、すぐやったほうがいいと、先生の後押しもあって。でも手術説明でバサッと切るというので、止めようと。妻の健康な身体を傷つけるわけにはいかないですから。そしたら穴を開ける手術があると聞いて。 |
「そう、なかなか筋がいいですよ!」 |
松村 | じゃ生体ドナー内視鏡手術で? ※生体ドナー内視鏡手術:おなかに開けた小さな穴から内視鏡を挿入し、腎臓を摘出する方法。 |
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松井 | そうです。それでも当日までやっぱり止めようと何度も思いました。 | |
松村 | 手術後、最初にお会いになったのはICUですか? | |
松井 | いえ、ほとんど同時に同じ部屋に移してもらって。そのときは涙しかでませんでした。彼女が痛がっている姿をみて、後悔と複雑な気持ちで、えらいことしちゃったと。 | |
松村 | 健康な人の身体にメスをいれちゃったって? | |
松井 | ええ、でもあっという間に元気になって、二人で廊下を歩いていました。 | |
松村 | 術後は順調だったんですね。でも奥様の腎臓は小さかったんでしょう? | |
松井 | ええ、小さいですね。3年もてばいい、5年持てばいいという気持ちで今までやってきましたけど、拒絶反応は一度もないし、移植後入院もしてません。 | |
松村 | 松井さんの身体に奥様の腎臓がマッチしているんですね。 |
サポートしたいといわれ、透析導入後に結婚
松村 | 透析になられたのはどうして? | ||
松井 | 糸球体腎炎でした。かなり前から悪かったらしいのですが、体力があるので気づかずに、放っておいたんですね。 | ||
松村 | つらかったでしょうに? | ||
松井 |
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松村 | それが最初の自覚症状? | ||
松井 | そうです。それが半年前からありました。最後には、夜眠れなくなって、息苦しくて、咳が止まらなくて。 | ||
松村 | それで病院に? | ||
松井 | はい、最初に病院に行ったときは、ぜんそくといわれました。薬をもらったらよけい体調が悪くなり、おしっこもほとんどでていませんでした。 それで血液検査をし、腎臓が一切機能してないと・・・その日から透析導入です。 |
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松村 | そのとき、奥様は? | ||
松井 | まだ結婚前だったんです。つきあってはいたのですが。透析をはじめてから3ヶ月、僕の生活をみて結婚しようといってくれました。 | ||
松村 | 奥様のご両親などから反対はありませんでした? | ||
松井 | 不思議と反対はなくて。逆にうちの家族がだめだと。僕白身もそういう気持ちでした。相手のことを思いますから。 でも彼女がサポートしたいといってくれたので、結婚することにしました。 |
きつかった透析とゴルフの両立
松村 | 透析はどのように? |
松井 | 4時間、週3回で、ほとんど仕事もままならない状態でした。 |
松村 | 透析中は、ゴルフを止めるようにいわれませんでしたか? |
松井 | いわれましたけど、仕事ですから。教えるだけということもできたのですが、プレイもしてました。 |
松村 | 先生には内緒? |
松井 | 日焼けしてるからわかっちゃいます。怒られましたよ。でも、理解してくれる先生もいて、がんばってといってくれました。 |
松村 | 透析とゴルフとの両立はどのように? |
松井 | 基本的には昼間に仕事をして夜間透析をしてましたが、試合の移動日とかは午前中にしてもらい、そのまま飛行機で北海道とか、しょっちゅうそんなでした。 |
松村 | それをみて奥様は腎臓を提供して下さったんですね。最近、奥様とそのことについて話したりしますか? |
松井 | しょっちゅうします。会話のなかにスルッと入ってくるので、ギュッと締められます。 |
松村 | 締められる? |
松井 | ええ、働き過ぎだと。プロゴルファーは不安定な仕事です。透析になって、何年も仕事が自由にできずに借金したりとか、苦しい時期があったので、無理なスケジュールでも、つい入れてしまうので。 |
応援してくれる人に活躍する姿をみてほしい
松村 | 今は体調はいいんですよね? |
松井 | はい。それで来年からシニア・ツアーにチャレンジしようと思っています。ゴルフスクールの生徒さんもたくさん応援してくれるので、プレーヤーとしてグリーンで活躍する姿をみてもらいたい。 |
松村 | 松井さんのお人柄で、周りの人たちが応援してくださるのですね。ほかになにかやりたいことはありますか? |
松井 | 障害者スポーツの世界大会に出てみたらと勧めてくださるドクターもいるので、参加を検討しています。かなりレベルが高いので、チャレンジしがいがあります。 |
松村 | 松井さんのその前向きでポジティブのもとは、なんなんでしょう? |
松井 | 長期計画を立ててその通りにいかないとストレスになるんで、計画性がないんです。やりたいと思ったら今やる、やるからには、全力を尽くすから、ストレスがないのかな。 |
松村 | でも、奥様だけは長く大切にね。 |
松井 | はい、それはもう。看護師さんにも同じこといわれます。毎日腎臓を触って彼女を思ってから仕事に入ってくださいと。 |
松村 | そして、いただいた腎臓を20年30年と持たせて、あげて良かったと思わせる人生じゃないとね。 |
松井 | そうですね、妻が手術室に運ばれていく姿は忘れられないですから、一日でも長く健康でいられるよう、気をつけていきたいと思います。 |
松村 | シニアの大会をテレビで拝見するのを楽しみにしています。 |
インタビューを終えて
「ちょっと振ってみませんか?」と誘われて、独身時代ちょっぴりかじっただけだったのに、40数年ぶりにクラブを握ったら、ちゃんと握れて自分でもビックリ。松井プロに教えていただいたら、即打てる気がして、ゴルフを再開しようかと思ってしまいました。松井さんの人気の秘密をチョッピリ垣間見た気がしました。シニア・ツアーの時、ギャラリーで見に行こうかしら。