腎臓病と共にイキイキと暮らす方々に、腎臓サポート協会理事長 松村満美子がインタビュー
(職業や治療法は、取材当時のものです)
横尾 雅 さん(よこお みやび:1978年生まれ)
どうして私がIgA腎症になったのと泣いてばかりの日もあったけど、こんなことでへこたれてたらあかん!と100以上の低たんぱくレシピをクックパッドに!
1978年5月産まれ、37歳。兵庫県在住。2010年33歳のときに風邪で高熱が出たことで腎生検を実施、IgA腎症と診断される。翌年結婚。その後、扁桃腺摘出・ステロイドパルス療法の結果寛解。2013年35歳で女子出産。2014年再び妊娠するが流産、現在は第2子誕生のために治療に励んでいる。低たんぱくレシピを「みやび工房」の名前でクックパッドに投稿。
歳をとったら、透析になる覚悟はできています。
それでも、もう一人子供がほしい!
横尾雅さんは結婚式の3ヶ月前にIgA腎症と診断されました。早期に発見し、すぐに治療を開始したおかげで、扁桃腺摘出・ステロイドパルス療法で寛解し、2年後には諦めかけていた待望の女の子を授かりました。料理が大好きで、低たんぱく食もいろいろ勉強し、100以上のオリジナル・レシピをクックパッドに投稿しています。完璧な食事療法のおかげかとてもお元気そうで、現在はクレアチン0.7と安定し、第2子を授かることを待ち望んでいるそうです。
美味しく食べたいから制限食も自分で作る
松村 |
低たんぱくのレシピをインターネットのクックパッドに投稿されていますが、今までどのくらいアップしましたか? |
横尾 |
2011年の11月から、「みやび工房」という名前で120~30はあると思います。 |
松村 |
それはすごい、ファンが多いんでしょ? |
横尾 |
ファンなんてとんでもないです。最初は頑張ってましたけど、この頃は忙しくてほとんどやっていないんですよ。 |
松村 |
どうして始めたんですか? |
横尾 |
2011年の1月にIgA腎症だと分かって食事療法を始めましたけど、本を見てもうまくできないし、インターネットで検索してもあまりみつからなくて。だから、こういうのがあったら便利だろうと、投稿するようになりました。 |
みやび流 だいこん餅
大根おろしと片栗粉、あとは好みでエビやネギを入れて焼くだけ |
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松村 |
インターネットで腎臓病のレシピが見られるのはサポート協会のホームページくらいだったかもしれませんね。 |
横尾 |
最近はクックパッドでも低たんぱくレシピを見かけるようになりましたけど。 |
松村 |
そうですね。でも、雅さんが最初ですね、きっと。もともとお料理が好きなんですか?計量もキチンとすぐできるようになりました? |
横尾 |
料理は好きです。短大で食品関係の勉強をしたので計量はすぐ慣れましたけど、本に載っている計算式だとうまくいかなくて、自分で計算式を作ったりしました。 |
松村 |
それはすごい。失敗はしませんでしたか? |
横尾 |
何百回も失敗しました。たとえば料理番組でだいこん餅の作り方を見て、大根はタンパクが低いし腹持ちもしそうなので応用してみようと試しましたけど、片栗粉の量とか、大根おろしの絞り具合など、完成するまで大変でした。 |
松村 |
市販の低たんぱく食品とかは使ってますか? |
横尾 |
最初は使ってみましたが、あまり美味しくなくて、だったら自分で作るしかないと。 |
松村 |
最近はずいぶん美味しくなったようですけど、自分で作れるならそれが一番ですね。料理はご家族とは別に作るんですか? |
横尾 |
ついこの間までは別に作ってたんですけど、今は同じです。主人や子供のぶんは、たんぱく質は多めですけど。 |
松村 |
ご主人は味がないっておっしゃらない? |
横尾 |
慣れたみたいで、この間はラーメン屋さんでしょっぱすぎるといっていました。 |
松村 |
素材の味がよく分かるようになったのでしょうね。 |
味はつけてないのでポン酢で。
独特の歯ざわりで、美味! |
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発病してすぐ腎生検をIgA 腎症を早期発見
松村 |
腎臓病が見つかったのはいつですか? |
横尾 |
2010年の11月で、33歳のときでした。 |
松村 |
何でわかったんですか? |
横尾 |
風邪で38度の熱がでて、近所の病院では「大きな病院に行きなさい」と。それで近畿中央病院に行ったら、すぐ腎生検をすることになり、IgA腎症だと診断されました。 |
松村 |
すぐ腎生検?クレアチニンはどのくらいだったの? |
横尾 |
0.8とか0.9ぐらいでした。 |
松村 |
すごい高熱でもないし、クレアチニンもそんなには高くはないから、普通なら様子をみましょうということになるかもね。 |
横尾 |
ええ、主治医も「普通なら見過ごすかもしれないけれど、早く腎生検をしたほうがいい」と勧められました。 |
松村 |
先生はどなた? |
横尾 |
津久田 真広先生です。 |
松村 |
先生は、IgA腎症の可能性が高いと思われたのね。腎生検で特定できれば、IgAの治療に早くシフトできますからね。良い先生に巡り会えましたね。 |
横尾 |
はい、先生の奥様も腎臓が悪いようで、子供も二人産んでいるそうなんです。 |
松村 |
奥様がお悪いのですぐにピンときたのかもしれませんね。それですぐに治療をはじめたんですね。どんな治療を? |
横尾 |
まずCKD(慢性腎臓病)ということで、食事療法の指導を受けました。実はその3ヶ月後に結婚することになっていて… |
松村 |
婚約中だったの?病気がわかってご主人はなんて? |
横尾 |
私の母が反対して、結婚はやめるように主人にいったのですが、「そんなのは関係ない」といってくれました。 |
松村 |
それは良かったですね。 |
横尾 |
はい、それで結婚したらすぐに子供が欲しいと思っていたので、栄養指導の先生に聞いたんです。そしたら「子供のことは主治医にいわない方がいい、嫌がるから」といわれ、すごいショックで家に帰ってめちゃ泣きました。 |
松村 |
違ういい方があったかもしれないわね。それでどうしたの? |
横尾 |
主治医に相談したんです。そしたら「死ぬかもしれない」といわれました。 |
松村 |
出産で悪くなる人が多いしね。 |
横尾 |
だけどステロイドパルス療法をやれば可能性があると。「IgA腎症でも子供を産んでいる人は何人もいますから、大丈夫」といってくださって、また涙がでました。それで、その場でステロイドパルスを受けることに決めました。 |
松村 |
どんな治療でしたか? |
横尾 |
1ヶ月入院して、まず扁桃腺を摘出して、その後3回にわけてステロイドの大量投与をしました。 |
松村 |
結果は? |
横尾 |
寛解です。でも寛解というのは「症状は落ち着いているけど再発の恐れあり」と説明を受け、心配になりました。 |
松村 |
お子さんのことは? |
横尾 |
数値も安定しやっと主治医の許可がでました。 |
松村 |
妊娠中も腎臓病の治療はしていたんでしょ? |
横尾 |
はい、産婦人科の先生から「腎臓が悪化すれば妊娠を中断せざるをえない場合もある」といわれたので、食事療法は徹底的にやりました。 |
松村 |
頑張りましたね。 |
横尾 |
本当は、妊娠がわかった日から不安で泣いてばかりいたんです。でもお腹の赤ちゃんはどんどん育っていくし、「心配したってしかたがない」と、無理にでも楽しいことを考えマタニティライフを楽しむことにしました。それで、一昨年の8月に自然分娩で女子を出産しました。 |
制限内でしっかり食べ次の出産も乗り切って
松村 |
お子さんは1人? |
横尾 |
ええ、実は昨年の暮れに流産してしまって、 |
松村 |
それは残念でしたね。また挑戦なさるの? |
横尾 |
はい、欲しいです。 |
松村 |
たとえば、出産で腎臓が悪くなったらとは考えます? |
横尾 |
考えます。 |
松村 |
透析にならないように、今以上に気をつけなければならなくなりますね。 |
横尾 |
はい、わかっています、でも歳をとったら透析する覚悟は。 |
松村 |
できてるの?透析になっても、お子さんはもう一人欲しいと? |
横尾 |
はい、でも透析にならないと思います(笑)。 |
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松村 |
じゃ、食事療法を頑張らないとね。今はどのくらい? |
横尾 |
タンパク質50g、塩分6g、1800kcalですけど、そんなに食べてないです。塩分は4g、カロリーは1600くらいしか摂ってません。 |
松村 |
エネルギーは足りてますか? |
横尾 |
怖くて、あまり食べられないんです。主治医は「厳しくすると疲れちゃうからほどほどにして、焼き肉を食べにいったら、次の日に減らせばいいから」といってくださるんですけど。 |
松村 |
先生のおっしゃる通りですよ。食事制限をしすぎて栄養失調になってしまう人もいるんですよ。 |
横尾 |
毎日、計算はしているんですけど、食べると病気が悪くなるんじゃないかと怖くて… |
松村 |
エネルギー不足だと筋肉のたんぱく質を分解して補うので、腎臓にもっと負担がかかってしまいますよ。 |
横尾 |
ええっ、そうなんですか? |
松村 |
次の赤ちゃんのためにも、しっかり栄養をとって、体力をつけて臨んでくださいね。 |
インタビューを終えて
お料理が大好きだから、オリジナルの低たんぱくレシピを作るうちに、薬膳ソムリエの資格まで取ってしまったそうです。今は子育てが忙しくインターネットへの投稿はお休みとのことですが、話の合間に作ってくださっただいこん餅の美味しかったこと。食事療法も料理好きの雅さんの手にかかると、楽しく、美味しくなるのですね。それにしても病気が早く特定され、適切な治療を始めたことが幸いしましたね。次の出産を乗り切って、一生、透析と無縁にすごせると良いですね。おめでたのニュースを楽しみに待っています。
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