体験談 / 一病息災 Vol.99(2018年6月号)
腎臓病と共にイキイキと暮らす方々に、腎臓サポート協会理事長 松村満美子がインタビュー
(職業や治療法は、取材当時のものです)
(職業や治療法は、取材当時のものです)
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森 朋美 さん(もり ともみ:1971年生まれ)
21歳で血液透析導入。栄養士の資格をとって食事や生活に気をつけて現在は在宅透析で十分な透析をしてフリーのアナウンサーとして活躍中!
1971年9月生まれ。46才。フリーアナウンサー。小学校一年生で風邪をこじらせネフローゼ症候群を発症するが症状が治まったため治療を中止。高校一年の尿検査で要検査となり治療を始め、21歳で血液透析導入。オンラインHDFを経て2013年在宅透析に移行。
心まで病気に持っていかれないように…
サポート協会の主催・共催セミナーで司会を担当してくれている森朋美さん。会場で透析歴26年と聞いてびっくりした方も多いのではないでしょうか。原因不明で20代はじめに透析導入。それにもかかわらず次々と新しいことにチャレンジし、透析も血液透析(HD)からオンラインHDF、そして在宅透析と変えてきました。その過程で素晴らしいパートナーと巡り会い結婚、やりがいのある仕事をつかみ、毎日を生き生きと輝いて生活しています。その秘訣はなんなのか、じっくり話を伺いました。
在宅透析で嬉しいのは自由になれたこと
松村 | 在宅透析をしているそうですが、いつからですか? |
森 | 2013年からで、5年目です。 |
松村 | 透析歴はどのくらい? |
森 | 21歳のときに施設での血液透析(HD)をはじめて、もう26年になります。 |
松村 | 長いですね。施設透析になにか不満があったのですか? |
森 | オンラインHDF*をしていましたが、体調も良く、不満があったわけではないんです。 |
松村 | ではなぜ在宅に変えたの? |
森 | 旅行で臨時透析を受けた品川ガーデンクリニックが在宅透析を始めたばかりで、在宅透析がどんな風にいいのか教えてくれたんです。 |
松村 | すぐ決めたんですか? |
森 | 2年くらい悩みました。不妊治療をしていたのですが、40歳をすぎて最後のチャンスだったので、在宅透析にすれば体調がよくなり、子供も授かるかもと考えました。 |
松村 | それでどうでしたか? |
森 | 子供はだめでしたが、体調はすごくよくなりました。通常のHDからオンラインHDFに変えたときも身体が楽になりましたが、それ以上で、食事の制限もありません。 |
松村 | まったくないのですか? |
森 | 在宅は毎日できるので、たんぱく質もカリウムも抜けすぎて、逆に食べなくてはなりません。週3回4時間の施設透析では水分管理が大変ですが、在宅では水分も飲まないとなりませんから、基礎代謝があがります。その結果、体重も増えるし、体力がつき、考え方も前向きになりました。 |
松村 | 頭がハッキリするというのは聞いたことがありますね。 |
森 | 肌の色や質感も変わります。 |
松村 | ほんと、透析をしているように見えませんものね。 |
森 | なによりも一番嬉しいのは自由になったことです。週3回の透析から解放され、自分の時間が増えました。 |
松村 | そうですか。今はどんなスケジュールで透析してますか? |
森 | 週5回か6回、1回3~5時間です。 |
松村 | 毎日、決まった時間に? |
森 | 介助者が主人で、主人も私も仕事をしているので、二人のスケジュールで空いている時間にしています。 |
松村 | ご主人も協力的なんですね。 |
森 | 私の考えを尊重してくれ、惜しみない協力を得ています。 |
松村 | 自分で穿刺するのは怖くなかったですか? |
森 | 最初は不安でしたが、トレーニングしたことで不安が解消しました。 |
松村 | なにかトラブルは? |
森 | 機械の調子が悪いことはありましたが、クリニックやメンテナンス業者が24時間365日対応してくださって、大きなトラブルはありません。 |
よい先生に出会い、よきパートナーと巡り会う
松村 | 原疾患はなんだったんですか? | ||
森 | わからないんです。小学校一年生のとき風邪をこじらせ、気管支炎から溶連菌感染したみたいです。半年くらいグズグズしていたので少し大きな病院にいったら、すぐに北里大学病院の小児科に送られ、もっと早く来れば治ったのにといわれました。 | ||
松村 | そのときはもう腎不全に? | ||
森 | いえ、ネフローゼ症候群と診断され、投薬治療でひとまず落ち着きました。その後はもう大丈夫だから来なくていい、普通に生活してくださいといわれました。 | ||
松村 | で、再発したのは? | ||
森 | 高校入学のときの検尿で要検査になりました。 | ||
松村 | 小学校や中学校の検尿にはひっかからなかったの? | ||
森 | 大丈夫でした。早くに腎生検やステロイドパルスを受けていればと思うのですが… | ||
松村 | ステロイドパルスはなかったでしょうし、そういう時代でしたね。それでどうしたの? | ||
森 | 北里大学病院の泌尿器科で酒井糾先生に診ていただくようになりました。 | ||
松村 | 小児腎不全のパイオニア的な先生ですね。サポート協会の設立時、理事になっていただいていたんですよ。 | ||
森 | 本当ですか?酒井先生にはそれからもずーとお世話になったんです。 | ||
松村 | 患者のことを親身に考えてくださる先生なのよね。 | ||
森 | そうなんです。高校3年のとき進路で悩んでいたら、「4年生大学だと途中で透析になって卒業できないかもしれない」とおっしゃるので短大にしたんです。そこで栄養士の資格をとったのですが、それも酒井先生が「食事は一生のことだからキチンと勉強しておくほうがよい」とアドバイスしてくださったからなんです。結婚式にも出席してくださったんですよ。 | ||
松村 | そうですか。結婚はいつ? | ||
森 | 24才のときです。 | ||
松村 | 透析になってからですね。どこで知り合ったの? | ||
森 | 友達の食事会です。 | ||
松村 | 透析をしていることは最初から話したんですか? | ||
森 | いえ、私の病気を知っているのは親しい友達数人でしたから、言いませんでした。 | ||
松村 | それでいつ打ち明けたの? | ||
森 | 半年ぐらいお付き合いし、スキューバダイビングのライセンスをとりにいくことになって、なにかあったらいけないと思い話しました。 | ||
松村 | で、彼はなんて? | ||
森 | 「そうか」とだけ。 | ||
松村 | ほかになにも? | ||
森 | 考えたでしょうが、なにかいわれたことはないです。 | ||
松村 | 結婚となって、彼のご家族は反対しませんでしたか? | ||
森 | 反対されました、もちろん。 | ||
松村 | どうやって説得したのですか? | ||
森 | 私はなにも聞かされていないのですが、主人が説得してくれたようです。ご挨拶に伺ったときには、もうウエルカムでした。私たちは二人仲良くやっていればそれでいいよといってくれて。 | ||
松村 |
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休むときは休む!食事には細心の注意を!
松村 | フリーアナウンサーだそうですが、いつ勉強をしたの? |
森 | 短大時代にアルバイトでイベントのコンパニオンをしていたのですが、その事務所でいろいろ教えてくれました。 |
松村 | 仕事はずっと続けているの? |
森 | 卒業してすぐに透析になったので、週末だけコンパニオンをしていました。 |
松村 | 身体は大丈夫でしたか? |
森 | 貧血がひどくて身体は辛かったです。でもそれ以上に、精神的に大変でした。 |
松村 | というのは? |
森 | 同級生はみな就職して華やかな世界に飛び立ってしまったと感じて落ち込んで、自殺を考えたこともありました。 |
松村 | どうやって立ち直ったの? |
森 | 仕事が支えになりました。全く違う世界で、笑顔で人をもてなさなければなりませんから、それが良かったのかもしれません。 |
松村 | 病気でも、一生懸命になれることがあるのはいいことですね。 |
森 | 両親は身体のことを考えて反対しましたが、週末の仕事のために、週3回の透析も頑張れたと思います。 |
松村 | そうですか。それで仕事は結婚しても続けたの? |
森 | 結婚してしばらくして主人が起業することになったので、経理とかを手伝うためしばらくは中断していました。 |
松村 | いつ再開を? |
森 | たまたまアナウンサーの募集を知り、司会業をしている友達に勧めたんです。彼女は遠すぎたので、「あなたやったら?」といわれて応募してみたら、運よく採用されて。 |
松村 | いつ頃ですか? |
森 | 10年くらい前です。 |
松村 | 今はどんな仕事を? |
森 | ラジオやイベントなどでDJや司会、インタビューなどをやらせていただいています。 |
松村 | 透析をしながら、自分の仕事をして、ご主人の仕事を手伝い、すごくアクティブですね。なにか秘訣があるのですか? |
森 | 休むときは休み、メリハリのある生活を心がけています。 |
松村 | 食事はどうですか? |
森 | 在宅透析では食事は厳しくないですが、日々の生活、自分を作る、身体も心も作るのは食べ物ですから、食べることには本当に気をつけています。これは病気になってから一貫して続けていますし、栄養士の勉強をしたことがとても役に立っています。 |
松村 | 本当に前向きなんですね。 |
森 | いつも前向きに、落ち込まないようにしないと、やっていけないので。病気になると心まで病んでしまうことがありますが、心まで持っていかれないようにと心がけています。 |