~透析医学会から:治療法選択プロセスについて~
自分にとって最適な治療を選択するために
2017年8月
6月の日本透析医学会では、当協会が実施した患者アンケートの結果が中元秀友大会長(埼玉医科大学)および小松康宏先生(聖路加国際病院) の講演で活用されました。
今回は小松先生の講演「治療法決定のプロセスについて」から紹介します。
治療法は生活スタイルを考慮して決める
小松先生は家を買うときを例にあげ「不動産業者の説明だけでなく、自分の生活スタイルや好みを伝えて決めるのが普通だが、腎不全の治療法選択は不動産を購入すること以上にその後の生活に大きな影響を与えるものなのだから、より慎重なプロセスを踏む必要がある。
治療の成功率や生存率だけではなく、患者の価値観に沿った治療を、患者と医療者がともに選択していくことが大切だ」と、さまざまな角度から考察し発表されました。
治療法決定には継続的プロセスが必要
透析患者の40%以上が75歳以上と高齢化が進むなか、透析治療の目的も検査値を正常化したり生存期間を延長させるだけでなく、患者が安心し希望を持って人生を過ごせ、痛みや苦痛をいかに減らすかということが優先されるようになっています。小松先生はその目的を果たすために医療者は「患者の価値観や希望を十分に聞いたうえで、患者と共同して治療法を決めていくことが大切である」と述べられました。
このプロセスをシェアード・ディシジョン・メーキング*と呼びますが、外来で医師が説明するときに、「何か質問がありませんか」と聞いても、必ずしもすべての患者が自由に意見を言えるわけではありませんし、血液透析(HD)と腹膜透析(PD)どちらを選択しますかといわれてもすぐに決められるものでもありません。HDで通院するのが辛いという人もいますし、病院にいって友達やスタッフと話をするのが楽しみという人もいます。このように異なるニーズに応えるためには、「医療者は今までの経験から時には患者自身が認識していないニーズにも気づき、『HDを希望していても、PDという選択肢もあるよ』と提案したり、話合いを重ねていくこと」が大切だといいます。
では実際に患者はどう思っているかについては当協会の患者アンケートの結果を示し、医療者に任せたいは少なく、一緒に決めたい・自分で決めたいが多くを占めていることが紹介されました。
また透析が必要といわれたときに大部分の人が『日常生活がどのように変わるか』『今まで通り仕事や家事を続けることができるのか』『食事制限あるいは体調がどういう風に変わるのか』家族への負担が増えるのか』などに不安や心配を感じたことを指摘し、患者はそれらについて聞きたいと思っていると述べました。
また患者にいつどのように説明するのかもポイントであり、「初診時に話して混乱したり不安を強めたりすると、その後は医師の説明を聞いているようでも話が頭に残らないことがある」と、患者が説明をどの程度理解し受け入れているかを確認しながら、一回の説明だけではなく、時間をかけた継続的なプロセスが必要なことを強調されました。
『どう生きたいか』を考えましょう
このような患者主体の医療は世界的にも趨勢になってきており、日本だけでなく各国の現状や医療団体からの提言も紹介されましたが、これは医療者だけの問題ではありません。患者も『医療者にお任せします』というのではなく、自分が『どのように生きたいか』を考え、きちんと医療者に伝え、最適な治療を選択できるようになることが大切だと考えさせらました。
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※「2017年8月号そらまめ通信」より