腎臓教室 Vol.102(2018年12月号)

新しい腹膜透析
~生活に合わせていろいろな組み合わせが可能~

在宅医療が注目されているなか、腹膜透析(PD)についての新聞記事などを目にすることが増えています。ますます改良が加えられ、透析導入期に適した治療法だというのですが、新しいPDについてのポイントを、日本透析医学会理事長の中元秀友先生に解説していただきました。

埼玉医科大学総合診療内科 中元秀友先生

1.腹膜透析(PD)の進歩と現在の腹膜透析

 PDとは自分の体の「腹膜」を利用して血液をきれいにする透析療法で、お腹(腹腔内)に透析液を一日数回自分で入れ替える自己管理型の透析です。在宅治療ですから、学校や仕事への影響が少なく、生活の質(QOL)を維持することができます。また時間をかけてゆっくり透析がおこなわれるので体への負担が少なく、自分の腎臓のはたらき(残腎機能)を長持ちさせることや、カリウム制限が緩やかであることが利点で、患者さんの満足度が高い治療です。欠点としては、血液透析に比べて水分や老廃物の除去効率があまりよくないことや、糖尿病の患者さんでは血糖値が上がりやすいこと、さらに生体膜である腹膜を透析膜として使用するため、透析を続けるにともない腹膜の劣化が生じ、長期継続が難しいことがあります。かつては透析液に酸性液や高濃度のブドウ糖液を使っていたため長期に続けると急激に腹膜が癒着する(被嚢性腹膜硬化症:EPS)患者がでて、死亡率が高くなるという報告もあり、PDの継続期間の目安は5~8年といわれていました。しかし最近では透析液を中性化する改良や、高濃度ブドウ糖が使われなくなったことなどで、腹膜の劣化が著しく改善し、腹膜が癒着する患者もたいへん少なくなりました。

2.新しいPD療法

PDファースト

PDの長所を生かし、まだ残存腎機能がある保存期腎不全の時期からPDを導入し、残存機能の低下にともない透析方法を変えながら血液透析に移行するという考え方です。

インクリメンタルPD 現在、多く用いられているPD療法で、少量の透析液で一日1~2回程度

の透析液交換から始め、残腎機能の低下に応じて、透析液の交換回数や貯留液量、透析液の組み合わせなど、透析方法を変化させることで適切な処方を提供する方法です。これがPDの良さであり、新しいPD療法の醍醐味です。透析導入直後でまだ残腎機能が残っている患者さん、特に高齢の透析患者さんでは、生活の質(QOL)が保たれ満足度が得られる導入方法です。

血液透析との併用療法(PD+HD)

残腎機能が低下してくるとPDだけでは十分な透析量の維持が困難となる場合があります。透析不足と考えられる場合には週に1回ないし2回の血液透析(HD)を併用するPD+HD併用療法が広くおこなわれています。ハイブリッド療法といわれることもあります。

アシステッドPD

高齢者では、一人で完全にPDをおこなうことが難しい場合があります。そのような場合にご家族の協力や、介護ケアシステムの利用は大きな助けとなり、アシステッドPDと呼ばれています。アシステッドPDは今後の地域包括ケアを考えた医療のモデルともいえ、今後の高齢者腎不全医療に適した透析方法と期待されています。

3.PDのいろいろな選択肢

腹膜透析にはたくさんの「透析方法(モード)」があります。適切な「透析モード」を選択し、適切な処方を決定することが医療者の腕の見せどころになります。まず「透析モード」の決定に際し考えるべきポイントは、透析液の交換を手動でおこなう(CAPD)か、夜間中心にサイクラー(自動腹膜還流装置)を用いて自動的におこなう(APD)かです。 CAPDは通常1日に4回手動で透析液交換をする方法と、昼間だけ手動で頻回に交換をおこなうDAPDという手法がありますが、多くは夜間にAPDを併用しています。APDには基本的に3つの方法があります。夜間のみ4~6回の透析液の交換をおこなうNIPD(夜間間欠的腹膜透析)、NIPDだけでは透析不足になる場合に追加して昼間の手動による透析液交換をおこなうCCPD(持続的周期的腹膜透析)、そして腹腔内に残液を残し一部の液のみAPDで交換するTPD(タイダル腹膜透析)で、TPDは主に小児におこなわれます。このほかにも、透析液を注液しない休息の時間をもうけるなど、患者さんの状況に合わせてさまざまな組み合わせが可能です。
透析モードを考える場合には残腎機能を第一に考えますが、APDかCAPDかの選択は、患者さん自身の生活レベルと好みで決定します。昼間の仕事とQOLの改善を考えればAPDは魅力的ですし、高齢者で1日4回交換をおこなう必要がないような場合にもAPDは理想的な透析方法です。しかし夜間のみ交換するNIPDでは、残存腎の機能低下が速いとの報告がありますし、夜間の不眠の訴えでAPDを継続できない場合もあります。利点と欠点を十分に理解したうえで決定する必要があり、またCAPDで導入したのちに、状態を見てAPDに変更したり、その逆も可能です。

おわりに

以前は、HDを選択した患者さんは一生HDを、PDを選択した患者さんは可能な限りPDをおこなうという考えがありましたが、近年ではPDとHDは腎代替療法として互いに補い合い、腎不全患者の生活状況をできる限り良好に保とうとする考え方が一般的になってきました。PDからHDへ移行したり、移行時にはPDとHDを同時におこなう併用療法も可能であり、逆にHD患者さんで水管理が不良な場合にはPDを併用(PD+HD併用療法)するなど、個々の療法の長所を生かして臨機応変に組み合わせる包括的腎代替療法が一般的になってきています。

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