腎臓教室 Vol.103(2019年2月号)
新しい血液透析治療
~健常な腎臓のはたらきに近づくために~
前回は新しい腹膜透析について紹介しましたが、最近では血液透析の進歩も著しく、さまざまな透析方法を選ぶことができるようになりました。どんな透析方法が良いのか、そのメリット・デメリットを当協会のサポーターでいらっしゃる政金生人先生に解説していただきました。
医療法人社団清永会 本町矢吹クリニック 政金 生人 先生
1.週3回4時間透析では不十分
透析治療が始まって60年がたち治療技術は進歩しましたが、透析患者さんには動脈硬化の進行やアミロイド症などの合併症があり、掻痒症やイライラ、レストレスレッグ症候群などの不快な愁訴を完全に克服できてはいません。その一番の原因は、標準的な週3回4時間の透析では、健常腎に比べて毒素の除去が足りないからなのです。健常腎は1日24時間、週168時間休みなく働きつづけていることを考えると、週12時間では不十分なのかもしれませんね。 一般的に維持透析は、月水金グループと火木土グループでおこなっていますが、実は月水金グループでは月曜日に、火木土グループでは火曜日に心不全などの心血管合併症が起きやすいと報告されています。いわゆる「2日空き」が、体の負担になっているということです。透析患者さんに多い睡眠障害もこの「2日空き」によるバイオリズムの乱れが関係しているといわれています。健常腎では尿素やカリウム、リンなどの小さな老廃物が排泄されるだけでなく、β2ミクログロブリン(透析アミロイド症の原因物質)や炎症性サイトカインなどの低分子量蛋白とよばれる尿毒素(蛋白の汚れ)も捨てられます。標準的な血液透析では、この低分子量蛋白を捨てる力が健常腎に比べて弱く、これらの蓄積が透析患者の慢性炎症や栄養障害に関与するといわれています。
その他に、血圧コントロール、エリスロポエチンの産生、ビタミンDの活性化など腎臓が果たしているさまざまなホルモン作用は、透析治療だけでは代行されないので、皆さんご存じのように注射や内服治療をおこなっているわけです。
このように週3回4時間の標準的な血液透析では、健常な腎臓の働きと比べていくつかの欠点があることがわかりました。今回紹介する新しい血液透析治療はこれらの欠点を補うもので、強化透析治療とも呼ばれています。
2.新しい血液透析にはどのようなものがあるか
上述したように、現在の標準的な透析治療では健常腎に比べて不足している部分を補うのが新しい透析治療のエッセンスです。大まかには以下のようになります。(ア)透析時間の不足を補う治療
- 長時間透析・夜間睡眠時血液透析
- 頻回透析
- 在宅血液透析
(イ)2日空きを作らない治療
- 頻回透析
- 在宅血液透析
(ウ)蛋白の汚れをとる治療
- オンライン血液透析濾過(hemodiafiltration:HDF)
- 蛋白吸着型血液透析
(エ)その他
- 間歇補液型血液透析(透析中の血圧を安定させる)
長時間・頻回透析・在宅血液透析
長時間透析とは一般的に1回の透析時間が6時間以上のものを指します。フランスのタサン透析センターでは30年以上も前から1回8時間週3回の血液透析で、透析患者の生存率が非常によいと報告しています。高血圧の合併症は7%程度(わが国では60%以上)で、時間をかけてゆっくり除水するため、余分な水分を除去できると報告されています。頻回透析とは一般的に週5回以上の透析を指します。1回3時間未満の透析を週5~7回おこなう治療を短時間連日透析 ( Short daily hemodialysis : SDHD ) といいます。前述した週6~7回夜間8~10時間の透析を夜間睡眠時(在宅)血液透析 ( Nocturnal home hemodialysis : NHD )といいます。長時間透析、頻回透析を透析施設でおこなうには、物理的、経済的なさまざまな制約が生じます、そこで考えられたのが在宅血液透析です。