腎臓教室 Vol.113(2020年10月号)
〜ゴースト血管を増やさないために〜
⽑細血管ケア=腎臓を守る
ここ数年、⽑細⾎管が⽼化や病気に与える影響が注⽬されています。なかでも⾎液が流れなくなった「ゴースト⾎管」はさまざまな深刻な病を招き、慢性腎臓病(CKD)とも深い関わりがあることがわかっています。腎臓の「ゴースト⾎管」を増やさないようにして年齢相応の健康を保つ秘訣を教えていただきました。
医療法人社団新友会 常務理事 東邦大学 名誉教授 相川 厚 先生
1.⾎管がこわれると腎機能が悪くなる
腎臓は血管が非常に豊富な臓器であるため、血管が障害を受けるとその機能が低下します。尿を作るのは腎臓にある糸球体という器官で、毛細血管が糸玉のようになったところです(図1)。そこで血液から尿がこされて作られます(原尿)。普通の毛細血管は動脈と静脈のあいだにありますが、糸球体の毛細血管は輸入細動脈と輸出細動脈のあいだにあり、毛細血管といっても動脈と同様に圧力が高く弾力性に富み、血流量が多いため多量の血液を処理することが可能です(図1)。そのため原尿は1日に150Lもできますが、尿細管という細い管を伝わって吸収されるため、実際の1日の尿量はその1/100の1.5Lです。
この糸球体の毛細血管がこわれてしまうと尿を作ることができなくなり、腎機能が悪くなってしまいます。毛細血管がこわれるのは主に2つ原因があります。ひとつは糸球体腎炎や糖尿病により、毛細血管そのものがだめになってしまうもの。もうひとつは腎臓にいく動脈(腎動脈、小動脈、細動脈)の内側の膜が動脈硬化、老化による変化、糖尿病や高血圧によるヒアリンという物質の沈着により障害され内腔が狭くなり、血液が通らなくなってしまうことにより、毛細血管がこわれるものです。
糸球体の毛細血管がこわれると、糸球体硬化症といって、こわれた血管が硬くなって残骸が残ります。他の組織のゴースト血管は毛細血管がなくなってしまいますが、腎臓の糸球体のゴースト血管は毛細血管のなれの果てが残る見えるゴースト血管なのです(図2a,b)。
2.増加する腎硬化症
腎不全で透析が必要になる原因として一番多いのは糖尿病によるものですが、2番目は腎炎、3番目は最近増加して腎炎とほぼ同数になった腎硬化症です。以前は高血圧が原因で動脈硬化になり、血流不足から糸球体が硬化し、尿細管が萎縮し、尿細管と尿細管のあいだの組織(間質)が線維化して腎臓が硬くなり、腎硬化症が起きることが多かったのですが、最近は高血圧がなくとも加齢による血管の障害から腎硬化症になる例が増加してきています。そのため高齢者(70~80代)が腎不全になって透析になる原因のほとんどが腎硬化症です。
3.⾎管を健康に保つには
1)良い生活習慣を保つ
良い生活習慣を保てば、高齢になっても血管は年齢相応に健康でいることができます。 悪い生活習慣とは喫煙、運動不足、肥満、酸化ストレス、脂質異常、高血糖、高血圧のことで、これらを避け、予防することが大事です。この悪い生活習慣が長く続けば続くほど加齢による因子も加わり、腎機能を悪化させやすいのです。脂質、塩分、糖分の高い食事、菓子、飲み物の過剰摂取を避け、運動を継続し、それでも改善しない場合には、脂質異常、血糖、血圧を改善する薬を服用します。また女性に関しては閉経後、女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少します。そのため悪玉コレステロールが増加し、高血圧や動脈硬化になりやすいため、特に良い生活習慣を保つように心がけましょう。
2)高齢者では血圧を下げすぎない
高齢者で腎障害の進行を予防したり、止めたりするためには血圧の管理が重要です。日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD*診療ガイドライン2018」 では、75歳以上の高齢者では、収縮期血圧で150mmHg以下とし、降圧薬もRAS阻害薬**を第一選択とはしていません。これは、細動脈硬化、腎動脈狭窄を有する例ではRAS阻害薬を使用すると腎臓への血流量を低下させ腎機能をかえって低下させてしまうからです。非ステロイド系消炎剤やRAS阻害薬使用中の高齢者では、夏場の脱水で一過性の腎機能低下を呈する例は珍しくありません。また生命予後を良くするには、収縮期血圧が110mmHg未満になるのを避けるとされています。
* CKD(慢性腎臓病)
**RAS阻害薬:レニンアンジオテンシン系阻害薬
3)高齢者では食事制限・塩分制限をし過ぎない
CKDではたんぱく質制限、塩分制限(6g未満/日)が基本ですが、高齢者にあまりにも食事制限を強要すると、食欲がなくなり、栄養状態の低下、脱水、低血圧、サルコペニア(筋肉量の減少)、フレイル(体力・気力が衰えて日常生活を送りにくくなる現象)を起こし、死亡リスクを増加させます。ステーキをいっぱい食べるようなことはともかく、しっかり食べることも大切です。むくみ、高血圧、心臓病の予防には減塩が重要ですが、高齢者ではしばしば低ナトリウムになってしまうため、1日3g以下の制限はおこなわないほうが安全です。
まとめ
加齢により血管が障害され、腎機能が低下するのは、仕方のないことだと思っている方が多いと思いますが、さらにそれを悪化させることは避ける必要があります。高齢者は、良い生活習慣を保ち、血圧を下げすぎず、食事療法も食欲が落ちないように管理して、ゴースト血管を増やさないようにすれば、多少腎機能が低下しても、年齢相応に健康に暮らせます。