腎臓教室 Vol.115(2021年2月号)

~内科的治療を成功につなげるコツ~
多発性のう胞腎の患者さんやご家族の方へ

遺伝性の疾患で積極的な治療法がないといわれていた多発性のう胞腎。2014年の新薬登場と腎臓内科医の積極的な治療参加によって、流れが大きく変わってきました。その内科的治療と患者さんの生活のコツとは。

虎の門病院分院腎センター内科 乳原 善文 先生

1.多発性のう胞腎とは

 腎臓にたくさんののう胞(液体のつまった袋)ができ大きくなっていく病気です。優性遺伝のため親がこの疾患であるとほぼ50%の確率で子どもに受け継がれます。生まれたときから何十年という時間経過のなかでゆっくり大きくなり、腎臓の組織を圧迫して腎機能が低下し、平均すると60歳前後で透析に入る人が多いようです。のう胞があるからといって症状があるわけではなく、のう胞の中に細菌の感染や出血がみられた場合のみ、痛みや発熱がみられ、のう胞が大きくなるにつれお腹のまわりが張って大きくなってきます。

2.多発性のう胞腎の治療の変遷

 大きくなった腎臓に対して手術やカテーテルを使った治療がおこなわれることもありますが、以前は内科的な治療や特効薬はありませんでした。腎臓の機能が悪化し腎臓のサイズが大きくなるような人では、高血圧が原因であることがわかり、塩分を控える食事療法やさまざまな降圧剤が処方されました。日本透析医学会の1988年の調査では多発性のう胞腎患者の透析導入年齢は平均55.8歳でしたが、降圧剤の進歩やのう胞腎の末期腎不全診療に腎臓内科医が加わった結果、2013年には透析導入年齢は平均62.3歳になりました。

3.期待の新薬治療と注意点

 2014年、新薬(トルバプタン)の登場は画期的で、多発性のう胞腎患者の内科的診療にさらに多くの腎臓内科医が目を向けるようになりました。トルバプタンは多発性のう胞腎を治す薬ではありませんが、腎臓での利尿を抑える働き(バソプレシン)を妨げ、のう胞が増大する速度を抑制する効果があります。
 当院では、1996年頃からのう胞腎の腎動脈塞栓術、肝動脈塞栓術、のう胞感染症の治療をおこなってきました。また多数の腎不全保存期内科的治療にも当初より取り組んでき たこともあり、トルバプタン治療も積極的にとりいれました。
 当初は逆に腎不全の進行が速まり早期に投与をやめた患者さんが転院してくるケースも多く、この薬の効果に疑心暗鬼になったこともありましたが、悪化原因について次のことがわかりました。
(1)利尿作用があるため水分を多くとることを指導されますが、真水を多量にひたすら摂取することは容易ではなく、塩分や糖分が多く含まれる水分を摂取する傾向となり、結果として下腿浮腫が顕著で10~20kgの体重増加に陥っていた患者さんもいました。そのような場合には徹底したダイエットにより標準体重に戻すとともに、適切な塩分制限と飲水指導をおこなう管理で、1日2~3リットルの飲水量で腎機能低下を抑えられることがわかりました。腎臓は肥満や体液過剰に弱く、肥満と浮腫が持続することで腎不全悪化につながっていたのです。塩分にくっついた水分は排泄されにくく体液貯留につながり、トルバプタ ンによる腎臓からの排泄は困難であることもわかりました。

(2)ビール好きの方は注意が必要です。トルバプタンにより脱水状態になるため、ビールはことのほか美味しく摂取量が増えてしまいます。ビールにふくまれている糖分により体重が増えて、のう胞によりでっぱっていたお腹はさらに膨らみます。気づくとeGFRは確実に落ちていますし、体重は5~10kg増えています。

4.のう胞腎の進行を防ぐコツ

腎臓教室Vol.115

 トルバプタン服用による治療は、服薬中の水分補給や毎月の血液検査が必要なことを理解して、専門医の指導に従うことが大切ですが、きちんと管理しながら服薬することで、透析導入までの時間を延ばせる可能性がみえてきました。以下のようなトルバプタン治療のコツを守って、多発性のう胞腎の進行を抑えましょう。


① 体重測定は毎日おこなうこと
② 標準体重に戻すこと
③ 下腿浮腫の有無を毎日確認すること
④ 塩分制限(6g/日)を守ること

腎臓教室Vol.115

多発性嚢胞腎財団日本支部
(PKDFCJ)
 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の患者会で1996年に発足しました。患者・家族へ治療に役立つ情報をお届けし、情報格差をなくすよう日々活動を続けています。
 長年治療法がないといわれた遺伝性の疾患ですが、2014年に治療薬(トルバプタン)が承認され、2015年には特定疾病に認定され医療費助成が始まりました。今年度は、地方在住の方でも参加できるオンラインによる交流会を開始しました。同病者の生活や治療状況を知ることで勇気をもらう方も少なくありません。ご関心がある方は、ぜひPKDFCJのホームページをご覧ください。
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