腎臓教室 Vol.121(2022年7月号)
IgA腎症から末期腎不全への進行を抑制するための治療
―ステロイドパルス療法と扁桃腺摘出術併用について―
監修:原 茂子先生
原プレスセンタークリニック院長
IgA腎症とその治療
IgA腎症は慢性糸球体腎炎の中で最も頻度の高い腎炎です。慢性腎炎の約4割、透析治療を受けている患者さんの約3割を占めるとみられています。
かぜなどがきっかけで、免疫たんぱくの一種であるIgA(イムノグロブリンA)が、腎臓の糸球体に沈着し、糸球体を障害して炎症が起こります。たんぱく尿や血尿がみられ、腎生検(そらまめ通信vol.117で解説)でIgAの診断が確定されます。
早期に診断し、治療で治癒する可能性もありますが、治療が遅れて進行すると、10年前後で20%の患者さんが「末期腎不全」となり、透析による治療が必要になる場合も少なくありません。
治療として、従来はレニンアルドステロン系阻害薬、抗血小板薬、ステロイド薬などが使用されていました。
近年ステロイドパルス療法がおこなわれ、さらに扁桃腺が病巣となってIgAが産生されIgA腎症と関与することから、扁桃腺摘出の併用が望ましいと、堀田修先生がわが国で最初に報告されました。
ステロイドパルス療法とは
ステロイドとは「副腎皮質ホルモン」のことで、糖質コルチコイドという成分を人工的に作った薬剤が「ステロイド薬」です。免疫による炎症を抑える作用を持っていますが、同時に免疫を抑制する作用も持っています。
ステロイドパルス療法とは、高濃度のステロイドを点滴注射で、短期間に集中的に使用して、IgA腎症の進行を抑える治療法です。
扁桃腺摘出術の併用とは
ステロイドパルス療法を施行する前に扁桃腺を摘出します。治療効果がさらに期待できるためです。手術は耳鼻科と腎臓病医との連携のもと、耳鼻科でおこなわれます。
治療の実際
ステロイドパルス療法は、患者さんの状態を見ながら、基本的には入院で一定の間隔をあけて3回おこないます。ステロイドの量は500~1,000mgですが、施設によりその使用量、治療の間隔が異なる場合があります。
入院点滴治療の間にはステロイド薬を服薬し、さらに点滴治療終了後もステロイド薬を服薬し、徐々に量を減らし、約1年後には中止します。
治療方法は、施設や患者さんの状態によっても違いますが、治療効果には大きな差は認められていません。
治療効果について
1)扁桃腺摘出術のみでも効果はあるのですか?
扁桃腺を摘出することにより、尿所見の改善が得られ、また腎機能の低下が抑制されました。
2)ステロイドパルス療法と扁桃腺摘出術併用で、より効果があるのですか?
併用療法では、たんぱく尿がより消失し、他の治療法よりも腎機能の悪化が抑制されました。
3)ステロイドパルス療法は腎機能が低下した場合にも効果がありますか?
クレアチニン値が、2.0mg/dl未満では上記のような効果がみられますが、2.0mg/dl以上では治療効果が乏しいようです。早期診断、早期治療がより大切であることを示しています。
一方、最近の研究では、腎機能が中等度以上に低下した患者さんにも有効であったという報告もみられています。その治療効果の確認には長期の経過観察が必要です。腎臓の診療にかかわっている多くの医師がより良い治療をと常に考えています。今後に期待しましょう。
ステロイドの副作用と服薬中に注意すべきこと
ステロイドを長期間服薬すると、ムーンフェイスと言って顔が丸くなりますが、これは心配する副作用ではありません。その他は、感染症にかかりやすい、消化性潰瘍、糖尿病の合併、高血圧、肥満、食欲亢進などですが、お薬の減量~中止で改善がみられます。
副作用が気になって、自己判断で服薬をやめることで起こるのが「ステロイド離脱症候群」と呼ばれる症状です。発熱、全身倦怠感などがみられ、危険です。不安なことは、医師に相談しましょう。
コラム
「ステロイド治療」と聞いただけで拒否反応を示す方も少なくありません。ステロイドパルス療法は、間質性肺炎、膠原病などさまざまな疾患で、確立された治療法です。腎臓疾患は早期診断と早期治療が必要です。不安を感じた時には医師と相談しましょう。