腎臓教室 Vol.128(2024年4月号)

血液透析が少しでも楽になるために

監修:中山 昌明先生
聖路加国際病院 腎センター長・腎臓内科部長


 

 透析患者さんの健康状態を把握するために、血液検査、エックス線写真、CT、エコー検査など、さまざまな検査がおこなわれています。しかし、このような検査を駆使しても医療者側にはわからないこともあります。それは、患者さんにしかわからない自覚症状です。直接命に係わるものではないものの、患者さんを常に悩ませ、日常生活への影響も小さくありません。代表的な症状として、倦怠感、痒み、お腹の症状(吐き気、便秘など)などが挙げられます。このようなつらい症状を少しでも緩和し、健やかな透析ライフを過ごしていただくための対策と心がけがあります。

倦怠感の原因と対策

 倦怠感は、程度の差はあるものの半数以上の患者さんが自覚している症状です。透析をおこなった後から疲労感が出現し、翌日には消失するのが典型的です。原因としては、透析による水分や栄養素の除去、血圧の低下、透析膜による血液刺激(生体非適合性といいます)などが挙げられます。透析中の除水量が多い場合、血圧の低下や血液循環が不良となる状態が引き起こされます。また、血液から毒素と共に栄養素(アミノ酸や水溶性ビタミン)も除去されますので、栄養不良の方は、透析治療は体に大きな負担となります。血液が透析膜と接触すると血液中の白血球やたんぱくが刺激されることにより体に軽い炎症が引き起こされ、透析後の疲労感出現に関わっています。

 この対策として、まず重要なのが、体重が増えすぎないようにすることと体力を落とさないようにすることです。体重を増やさないポイントは、食事量を制限することではなく、塩分を制限することです。カロリー・たんぱく質の栄養を摂らなければ体は消耗し体力が落ちます。透析日の朝、体重増加を心配して食事を抜いてしまう方もいると聞きますが、透析では体にとって大切なアミノ酸が半食分は抜けてしまいますので、しっかり食事を摂ることを忘れないでください。生体非適合性は複雑な問題ですが、透析膜の変更や電解水透析(※1)などが体への刺激を軽減し、これにより疲労感が軽減することが報告されるなど、最近この分野の研究が格段に進んでおり、今後の更なる検討が期待されます。

 また、心理的ストレスが原因で疲労感が慢性的に持続する方もいます。この対策としては、気持ちを前向きに明るく保つことがポイントになるため、認知(ものの受け取り方や考え方)に働きかけて、患者さんの気持ちを楽にする専門的な心理療法の導入も検討されています。

痒みの原因と対策

 痒みも、非常に多くの方が訴える症状で、睡眠障害に直結する厄介なものです。痒みのために皮膚を搔きむしるとそれがまた皮膚を刺激して症状が増幅するという悪循環を形成します。原因として、乾燥肌など皮膚そのものの環境に原因がある場合、そして高リン血症など透析の管理不良が原因となる場合があります。対策としては皮膚の十分な保湿を心がけること(石鹸で過度に皮膚脂質を減らさない、保湿剤を使用する)、血液リン・副甲状腺ホルモンをしっかり管理することも重要です。ところで、痒みは皮膚そのもので感じるのではなく、皮膚に分布している神経の受容体が刺激され、その電気信号が脳に伝わることで「痒み」が自覚されます。つまり、痒みは脳で感じているのです。この脳に伝わる刺激を抑制する薬剤(ナルフラフィン塩酸塩)で痒みは軽減されます。また、オンライン血液透析濾過(※2)は幅広くさまざまな尿毒素を除去する透析治療法ですが、これが掻痒感の軽快に有用とされています。

吐き気、便秘などの原因と対策

 吐き気、便秘などのお腹の症状は、胃腸に問題がある場合は別として、リン吸着薬の副作用で症状が出ている方も珍しくありません。食事に合わせて1日3回内服するのが一般的ですが、吐き気や便秘、下痢が誘発される方もいます。リン吸着薬を別の種類に変更することで、これらの症状出現を回避することも可能です。食物繊維の摂取は、お通じの改善、腸内(細菌)環境の改善、さらに尿毒素の軽減など多くの利点がありますが、患者さんの中には、血液カリウム値が上昇することを心配して避ける方もいます。海外の研究では、上手に野菜を摂取した透析患者の方が合併症が少ないという報告もあります。栄養士とよく相談して上手に野菜・食物繊維を摂取していただきたいと思います。最近、さまざまな新しいタイプの下剤が開発されているので、便秘でお悩みの方は主治医の先生に相談してください。

快適な血液透析を目指して

 患者さんの訴えに対して、医療者側が適切に対応していこうとする姿勢は、世界的なトレンドとなっています。このために、医療者が症状を的確に把握することが求められています。このためのツール(評価尺度)が開発されていますが、代表的なものとしてVAS法(Visual Analogue Scale)があります。症状の程度を0(全くなし)から10(経験した中で最高)の範囲で数値化して示してもらうものです。このような患者さん側の自己評価はすべての対策の第一歩となります。

腎臓教室Vol.128

  • ※1 電解水透析:日本で開発された、水を電気分解することで生成する電解水素水(微量な水素ガスを含む水)を用いた血液透析です。実際の治療で使われ医学的検討が進められ、透析関連の合併症の抑制について成果が報告されつつあります。
  • ※2 オンライン血液透析濾過(オンラインHDF):さまざまな大きさの尿毒症性物質を効率よく除去する治療法で近年主流となっています。血液透析をおこなっている最中に、透析液を透析回路から点滴し、同時に透析膜から除去します。
  • コラム

    血液透析にともなう倦怠感、痒み、吐き気や便秘などは患者さんにしかわからない症状です。このような症状は医療者側にきちんと伝え、症状を緩和するための対策や心がけについて相談し、医療者と二人三脚で少しでも快適な血液透析を目指しましょう。

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