腎臓教室 Vol.129(2024年7月号)

慢性腎臓病患者さんが気を付ける感染症とその予防

監修:吉藤 歩先生
慶應義塾大学 医学部感染症学 臨床感染症センター

慢性腎臓病患者さんは感染症にかかりやすいの?

 腎臓の機能が低下すると、免疫力(病原菌や異物を排除する白血球の働き)が低下します。これは、慢性腎臓病による慢性炎症、尿毒性物質の蓄積、栄養不足、骨ミネラル代謝異常に加え、高齢・糖尿病・心血管疾患などの合併が原因といわれています。

 慢性腎臓病患者さんは慢性腎臓病を有さない方と比べて、約3倍も感染症をおこしやすく、特に、肺炎、尿路感染症、皮膚の感染などをおこしやすいといわれています。また、インフルエンザや新型コロナ感染も慢性腎臓病が重症化するリスクとされています。慢性腎臓病の患者さんは感染症に注意していく必要があります。

慢性腎臓病患者さんの感染症を減らすためにできること

 まず重要なのが、ウイルスや細菌に暴露するリスクを減らすことです。人ごみではマスクを着用し、帰宅時には手洗い、うがいをしましょう。それでも発熱などの症状が出た場合には、早めに医療機関を受診し、正しい診断をしてもらうことが必要です。もうひとつ、有効な方法として感染症にかかりにくく重症化しにくくするためにワクチン接種が挙げられます。

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慢性腎臓病患者さんが打つとよいワクチン

 慢性腎臓病患者さんに推奨されているワクチン(表)があります。今回は特に重要な肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、新型コロナワクチン、帯状疱疹ワクチンについて説明します。

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肺炎球菌ワクチン

 慢性腎臓病患者さんは肺炎にかかりやすく、重症化しやすいといわれています。特に肺炎球菌による肺炎にかかるリスクは、5~23倍になるというデータもあるのでワクチン摂取が推奨されています。

 肺炎球菌ワクチンを接種すると、肺炎にかかるリスクだけでなく、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患のリスクも下げるというデータもあります。肺炎球菌の表面は莢膜(きょうまく)で覆われていて、その型(血清型)は90種類以上のタイプがあります。その中でも特に重症化しやすい血清型を含んだワクチンが開発されています。

 肺炎球菌ワクチンには次の2種類があります。

①肺炎球菌の莢膜成分のみで23種類の血清型が含まれるワクチン

②肺炎球菌の莢膜のたんぱく質が含まれ13種類の血清型が含まれるワクチン、15種類の血清型が含まれるワクチン 血清型は少ないですが、たんぱく質が含まれていることで免疫が付きやすいといわれています。

 ①は65歳の時または60歳以上65歳未満で心臓や腎臓、呼吸器に重度の病気があり日常生活に制限がある方を対象に1回のみ定期接種*ができ、自治体からの助成があります。②は任意接種になります。
 慢性腎臓病患者さんは、ワクチン接種によって得られる効果が低く、その効果が持続する期間が短い可能性が指摘されていますので、①のワクチンを5年毎に接種する方法や②のワクチンと組み合わせて接種する方法を検討してもよいでしょう。

定期接種:「予防接種法」という法律に基づき、自治体が実施する予防接種


インフルエンザワクチン

 アメリカの研究によれば、末期腎不全患者さんのインフルエンザによる死亡率が高いことが報告されいます。インフルエンザワクチンを接種することによって、入院や死亡するリスクを低下させることができるといわれています。インフルエンザは冬に流行しますので、毎年秋に接種するとよいでしょう。


新型コロナワクチン

 慢性腎臓病患者さんで新型コロナ感染症が重症化しやすいといわれています。これまで多くの患者さんが複数回のワクチンを接種してきたと思います。しかし、時間と共にワクチンの効果が低下するので、少なくとも年に1回のワクチンの追加接種が必要ではないかといわれています。


帯状疱疹ワクチン

 子供の頃に水疱瘡にかかった後にウイルスが神経節というところに潜み、免疫が低下した時に発症します。80歳までに3人に1人が発症し、特に50歳代から発症しやすく、慢性腎臓病患者さんでは発症率が1.6倍になるといわれています。重症化するとめまい、耳鳴りなどの合併症、視力低下や難聴、神経痛などの後遺症をきたしやすいので、ワクチン接種が推奨されています。日本では、弱毒生ワクチンと遺伝子組み換えワクチンの2種類があり、どちらも感染を予防する効果、後遺症の軽減効果があることが報告されていますが、効果や副作用などに違いがあるので、主治医の先生と相談して決めてください。現在、自治体によっては助成金がでるところもあるので、確認するとよいでしょう。

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ワクチン接種で注意すること

 ワクチンは感染症を予防するために重要です。ワクチンをいつ接種したかは重要な情報となるので、是非接種した記録をつけるようにしてください。

 ただし、販売される前に安全性が確認されているものの、稀にワクチンを接種したことが原因で病気になったり障害が残ったりすることがあります。その点も理解し、ワクチン接種による感染予防や重症化予防について一人ひとりが考える必要があります。

コラム

慢性腎臓病患者さんは感染症を起こしやすく、重症化しやすいと言われています。
また、感染すると腎臓病が重症化するリスクにもなります。主治医と相談してワクチン接種についてしっかり検討しましょう。

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