腎臓教室 Vol.130(2024年10月号)
国が進める慢性腎臓病の対策と現況
監修:鶴田 真也
厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課長
日本における慢性腎臓病(CKD)の患者さんの数は、高齢化の影響などで年々増加傾向にあります。慢性透析療法を受ける患者さんの数は令和4年(2022年)末には約35万人であり、前年よりわずかに減少をみとめたものの依然として多く、CKDは国民の健康に重大な影響を及ぼす課題の一つと認識しています。
厚生労働省では、平成30年(2018年)7月に「腎疾患対策検討会報告書~腎疾患対策の更なる推進を目指して~」をとりまとめ、自覚症状に乏しいCKDを早期に発見・診断し、良質で適切な治療を早期から実施・継続することにより、CKD重症化予防を徹底するとともに、透析患者及び腎移植患者を含むCKD患者の生活の質を向上させることを目標に掲げ、対策に取り組んでいます。腎疾患対策は、①普及啓発活動、②医療提供体制の構築、③人材育成、④診療水準の向上、⑤研究開発の推進を5本の柱としてそれぞれの方向性を示し、日本腎臓学会などの関連学会と連携しながら、推進しています。
普及啓発活動
「慢性腎臓病(CKD)特別対策事業」を実施し、地域における一般市民向けの講演会の開催や医療関係者を対象とした研修などを実施することを支援しています。また、腎疾患政策研究事業研究班では、CKD啓発のための普及啓発資材や動画の作成をおこない、研究班のホームページに掲載しています。これらの活動などにより、日本腎臓病協会の調査結果によると、CKDの認知度は徐々にですが上昇傾向にあります。
医療提供体制の構築
CKDを早期に診断し、適切なタイミングで治療をおこなうために、かかりつけ医と専門医で連携しながら治療をおこなう二人主治医制などの医療体制を構築することを目指しています。令和元年(2019年)度より「慢性腎臓病(CKD)診療連携モデル事業」を開始し、医療機関間の連携強化に関する取組を支援しており、他の自治体への横展開可能なCKD診療モデルの構築を図っています。さらに、かかりつけ医と専門医の連携をスムーズにするため、「かかりつけ医から腎臓専門医・腎臓専門医療機関への紹介基準」についてリーフレットを作成し、日本医師会や関連学会などと協力しながら医療機関に向けて配布し、紹介基準の周知を図っています。
また、腎不全が進行した時の腎代替療法には、血液透析、腹膜透析、腎移植という選択肢がある中、日本国内における慢性透析患者は大多数が血液透析を選択している現状があります。腎代替療法は、患者さんがさまざまな治療法について専門医から十分な情報提供を受けた上で選択することが重要と考えているため、こうしたかかりつけ医と専門医との連携を強化する取組などを推進しています。
人材育成
CKD治療では、薬物治療のみでなく生活習慣の改善、減塩などの食事療法なども重要です。そのため、医師のみでなく適切な療養指導をおこなえる多職種の医療スタッフの育成が望まれます。平成 29 年(2017年)度より日本腎臓病協会が主体となり、看護師、保健師、管理栄養士及び薬剤師を対象とした腎臓病療養指導士制度が開始されました。腎臓病療養指導士は、CKDに関する職種横断的な基本知識を持ち、チーム医療と医療連携を進め、CKD患者さんに対する療養指導を適切に実施できる医療スタッフであり、資格取得者は全国で増加傾向にあります。令和6年(2024年)度からは、CKD指導の経験のある医療スタッフが連携しておこなう生活習慣に関する指導などを評価するため、診療報酬として慢性腎臓病透析予防指導管理料が新設されました。これにより、患者さんへの生活指導に対し、より積極的に取り組む病院が増えることを期待しています。
また、令和4年(2022年)より、日本腎代替療法医療専門職推進協会が主体となり、看護師・保健師、管理栄養士、薬剤師、臨床工学技士、移植コーディネーター、及び医師を対象とした、CKDの腎代替療法の選択・療養指導に関する基本知識を有した腎代替療法専門指導士制度も開始されました。この制度では、透析医療だけでなく、移植医療も含めた腎代替療法の適切な選択をサポートする人材を育成することなどが目的とされています。
診療水準の向上
医師等の医療スタッフのCKD診療水準の向上を目的として、日本腎臓学会において、日本糖尿病学会、日本高血圧学会などの意見も踏まえながら、学会横断的なガイドライン「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2023」が作成されました。また、看護師や管理栄養士などの医療スタッフを対象とした「腎臓病療養指導士のためのCKD指導ガイドブック」や、患者さんを対象にした「CKD 療養ガイド」などが作成されています。
研究開発の推進
現状、CKDは治療薬が少ないため、腎不全の進行抑制もしくは改善させる治療薬の研究開発が急務です。腎疾患の病態解明や治療法の開発などを目的とした研究を支援し、新規透析導入患者数の減少の早期実現を目指しています。
これまで上記のような対策をおこなってきた中、対策が進んでいる部分もある一方で、依然として課題も見受けられます。具体的には、主に勤労世代でCKDの認知度が低いこと、医療機関間の連携がまだまだ不十分な地域があることなどが挙げられ、今後も関連学会などと議論しながら腎疾患対策における課題を一つ一つ解決し、腎疾患対策をさらに推進したいと考えています。
コラム
自覚症状に乏しい慢性腎臓病(CKD)は早期発見・早期治療が重要です。厚生労働省では、さまざまな対策を掲げながらCKD患者さんの重症化予防や生活の質の向上に取り組んでいます。腎臓が悪くなると健康に重大な影響を及ぼすので、腎臓をしっかり守っていきましょう。