腎臓教室 Vol.98(2018年4月号)

解明がすすむ IgA腎症
簡単な診断と透析ゼロを目指して

以前は透析になる原因疾患の一位だったIgA腎症。いまだに十分な治療が受けられないと40%の人が発病から20年程度で透析へと移行しています。2014年に難病に指定されましたが、医療費など助成を受けることができるのは重症度が高いか、病気がかなり進行してからです。しかし今、IgA腎症の発見と治療に大きな変化が起きつつあります。2018年1月におこなわれた厚労省主催の市民公開講座での順天堂大学医学部腎臓内科教授の鈴木祐介先生の講演から、ちょっと難しいですが、ホットな話題を紹介しましょう。

IgA腎症とは? 早期発見で9割が寛解

 IgA腎症は、腎臓の糸球体に免疫グロブリンのひとつであるIgAというタンパクが沈着し糸球体に炎症を起こす病気です。検尿制度の普及により早期に発見できるようになり、また最近では扁摘パルスという治療法が良い成績を上げているため、透析になる人は減っています。
 扁摘パルスとは、喉にある扁桃を摘出し、大量のステロイドを集中的に投与する(ステロイドパルス)治療法で、非常に高い寛解*誘導率を示すことから、現在、多くの医療機関でおこなわれるようになりました。IgA腎症発症から3年以内で約9割、7年以内で約7~ 8割が寛解、完全寛解に至らなくても、病状の回復がかなり見られ、透析を免れることも多くなっています。
 *寛解:完全に治ってはいないが、症状がでなくなった状態。

解明されつつある、どうして IgA腎症になるか!

 患者さんからの質問で非常に多いのが、「腎臓が悪いのに、なぜ離れたところにある扁桃をとるのか?」「どうして大量のステロイド療法をするのか?」という質問です。扁摘パルスの考え方は、ほとんどのIgA腎症の患者さんが悩んでいる「どうしてこの病気になったのだろう?」という疑問に深く関係しています。IgA腎症の病因は非常に複雑多岐にわたりまだ完全に解明されてはいませんが、最近では腎臓外にあると想定されています。これはIgA腎症の患者さんが腎移植を受けた場合、約半数が移植腎にIgA腎症が再発することや、IgA腎症の患者さんの腎臓をほかの原因で腎不全になった患者さんに移植した際に、移植した腎臓のIgA沈着が消えたという報告などから考えられます。少し専門的になりますが、簡単に説明してみましょう。
 まずIgAとはなにか? 本来は生体を守るための物質のひとつで、たんぱく質で構成され、糖鎖*によって修飾されています。風邪をひいたり扁桃炎では、喉にある扁桃で作られるIgA抗体が、ウイルスやばい菌にくっつきその働きを無力化すると同時に、白血球と結びついてウイルスやばい菌を死滅させます。
 *生体内に存在する糖の結合を鎖にみたてた言葉。
 日本人にはIgA のヒンジ部と呼ばれる場所の糖鎖の修飾のされ方に異常が多いことがわかっています。糖鎖を構成するガラクトースという酵素が少ないためにIgAが自己凝縮してしまったり、ほかの物質を呼び寄せてしまうなどの異常が起こります。これによってすぐに病気になるわけではなく、糖鎖異常のIgAを持っている人は少なくありません。
 ところがばい菌やウイルスの刺激のためなどで、この糖鎖異常のIgAを敵(抗原)と認識する抗体が出現、糖鎖異常のIgAとくっつき凝集し免疫複合体を作ります。こういった異常IgAなどを産生する細胞は時間の経過で骨髄や全身に散らばっていきます。その結果、免疫複合体が腎臓の糸球体にあるメサンギウムというところにくっつきやすくなって、炎症を起こして腎症を発生させると考えられています。

扁摘パルス療法はなにに効くの?

扁摘(扁桃摘出)

 糖鎖異常IgA を作り出す扁桃をとることで供給を絶ち、異常細胞の全身への散らばりを防ぎます。扁桃はばい菌やウイルスの第一防御機構として働いており、子供の頃はこの防御システムが重要ですが、成長するにともない全身の免疫機能が発達するために、摘出しても問題ないと考えられています。

ステロイドパルス

 全身の炎症を抑える作用があり、同時に全身に散らばった責任細胞を減らすことで、腎臓に沈着する異常なIgA の供給もおさえ糸球体の炎症を抑制することが可能になります。数回にわけておこないますが、ステロイドにはさまざまな副作用がありますので、事前によく説明を受けましょう。

IgA腎症の早期発見と透析ゼロを目指して

 以上のようにIgA腎症についてさまざまなことがわかってきましたが、検尿で早期に発見することができるようになったのに、なぜ見過ごされる人がでてきてしまうのか。それはIgA腎症は腎生検をして腎臓の糸球体にIgAが沈着してることが確認できないと診断できないためで、初期症状の血尿が発見されても尿タンパクが出現するまで進行しないと腎生検を受けるところまではいかないからです。
 近年、解明されてきたIgA腎症のメカニズムから診断や治療法選択の指標に応用可能なバイオマーカーの臨床研究がおこなわれています。腎生検をしなくてもIgA腎症が発見でき、早期に治療することで、透析にいたる人をゼロにしようという試みが着々と進んでいるのです。

Q&A

Q : 扁摘パルスはすべての人が受けたほうがいいのですか?

A:その患者さんの病期によって治療法を選択することがきわめて大事になります。たとえばIgA腎症によってかなり腎臓はこわれてしまったけれど、自然に治っていて、異常なIgAの供給は止まっているという場合は、供給元を絶つ治療は必要ではありません。これ以上、腎臓を悪くしないために血圧や食事の管理など、保存期的治療を中心におこなうことが大切です。

Q : IgA腎症だとわかる自覚症状はありませんか?

A:風邪をひいたあと1週間ぐらいでコーラのような色の尿(肉眼的血尿)が出た場合は、IgA腎症が強く疑われます。専門医を受診しましょう。

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